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金襴結界

 道三が拵えたのは、言うなれば金襴緞子の檻であった。

 ごてごてと金塊のような物が転がり、邪魔なことこの上ない。

 だがこの悪趣味な結界は、道三らしい、と義宣は考える。


「さあ。場所は作ってやったでえ。信長。来いや!!」


 蝮が吼えた。


 これを聞き逃す竜軌ではない。

 嬉々として誘いに乗ろうとするところ、美羽、蘭、力丸が同行しようとする。

 蘭と力丸はともかくとして――――――――。

「父の死に様が見たいか、帰蝶。それも止む無し」

 この発想は、「美羽」相手であればなされない。

 竜軌が、己が信長であり、美羽を帰蝶と認識するからこその発想であり発言である。

 義龍の場合と異なる点は、蘭も力丸も、道三を、義龍をはるかに上回り敵視していることだ。

 もし竜軌が道三の首を獲ろうとしても止める者がここにはいないのだ。


 恐らく美羽でさえ、記憶の底に沈む父への憎悪が、彼女に竜軌の戦いを止めさせはしない。例え道三が命の危機に瀕したとしても。


「よし。参れ」


 竜軌が振り返る。

 呼ぶ声に振り返れば、それだけで相手の結界内に顕現することが出来る。


 竜軌は美羽の肩を抱いたまま結界内の絢爛豪華を冷たく一瞥した。

 まるで金箔地に青や緑を彩色した(だみ)()だ。


「田舎者の趣味か。道三」


「安土城とそない変わらんのやないか、けったい言うなや信長」


「殺される為に俺を呼んだか。殊勝だな」


 道三がぱん、と両手を打って、竜軌を指差す。

「それや。その横柄、油断が命取りやて。それが解らんさかい、うつけ言うんや」


 義宣と蘭は戦闘態勢に入っている。

 力丸は美羽の傍につく。

 道三が竜軌を見据え、低く唱え始めた。


「オン・チシャナバイシラ・マダヤマカラシャヤヤクカシャ・チバタナホバガバテイマタラハタニ・ソワカ。オン・チシャナバイシラ・マダヤマカラシャヤヤクカシャ・チバタナホバガバテイマタラハタニ・ソワカ」


「ふん。お得意の呪術か……」


 鼻で笑うものの、竜軌の身にじわりと圧力が掛かったのは事実だ。

 道三が呪言を唱えるほどに、息が荒く、額に脂汗が浮いている。

「上様!」

「余所見の暇は無かろう、森成利!」

 蘭は蘭で義宣の相手がある。

 力丸に術の心得はなく、彼はただ美羽を守るしかない。


「オン・チシャナバイシラ・マダヤマカラシャヤヤクカシャ・チバタナホバガバテイマタラハタニ・ソワカ……バサラ・チシツバン!」


 竜軌が昏倒するのを、美羽は目の前で見た。

 それはいつか、彼が義龍に刺された時の再現のようであった。



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