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白い花

 昨晩、磁場の大きな乱れを感じた。

 それが真白の変調の原因かもしれない、と剣護も察しがついた。

 彼女にはどうやら、自分と備後(広島県)三次で夫婦でいた時までの記憶しか無いらしい。

 そして姿形の変わった自分を過たず「小野太郎清隆」と見抜いた。

 腕の中の温もり。

 今であれば何をしても真白は―――――若雪は許すだろう。

 許すどころか望まれている。


(若雪。真白。真白)


 剣護は真白に覆い被さるように口づけた。

 真白は従順に受け容れる。


 そこまでして、剣護は我に返った。

 赤面して真白の身体を押し遣る。

(荒太がいるのに。俺って奴は)

 言わば事故のような状況にかこつけて、真白の唇を奪ってしまった。

 拒絶されて傷ついた表情になった真白は、部屋を飛び出した。


「待て、真白――――――――っ!」


 

 浴衣姿のまま宿を出て、剣護から逃げてとにかく走り回った真白は、どこかの小路に迷い込んだ。

 彼女の胸にはまだ、夫である太郎清隆に拒絶された痛みがある。

(なぜ。兄様)

 嫁になってくれるかと言った言葉は。

 そのあとで交わした契りは。

 それに、ここは何と言うところだろう。

 見たことも聴いたこともない場所だ。

 心細さも手伝い、真白は顔を覆って泣いた。


「何泣いてんの、こんなとこで」

 

 青鬼灯は真白が泣く理由を知らない。

 ただ、自分にチャンスが到来したことを悟った。

 白い花に触れる好機が―――――――――。

 素早い動作で真白に接近し、足払いをかける。

 精神的にバランスを欠いていた真白は、呆気なく仰向けに倒れた。

 青鬼灯は、真白の上にのしかかった。

 簡易結界はもう張ってある。


「やっとあんたが抱ける」

「や、太郎兄!太郎兄!」

「門倉剣護は来られないよ。狂った磁場のお蔭で、簡易結界にも入りにくくなってる。呪術のスペシャリストくらいでないとね。でも、あんたの旦那は東京だ」


 青鬼灯の右手は真白の腿を這い、舌は首を舐める。

 真白は嫌悪と恐怖に顔を歪め、暴れようとしたが封じられた。


「いや、嫌だ!」

「嫌がるとこも可愛いよ。〝真白さん〟」


 ぺろ、と青鬼灯は舌なめずりした時、その喉仏から刀が生えた。

 青鬼灯の瞳孔が開く。


「あ……」


 ずる、と脱力する青鬼灯の身体を、荒太が足で邪険に退ける。

 青鬼灯の命の火はとうに消えていた。


「真白さん、無事?」


 荒太に声をかけられて真白もようやく、諸々の記憶を思い出した。

 そして代わりに、先程まで若雪だった記憶が飛んだ。

 真白には青鬼灯に襲われかけたらしいという自覚しかない。

 荒太は飛空を闇に帰し、真白を助け起こした。


「荒太君………」

「うん。磁場の乱れる気配を感じたから、心配になって結界を使って朝一で来た。正解だった」

「荒太君」

「うん」


 荒太の腕の中で、真白は泣きじゃくった。


 荒太は確かに、いつかの誓い通りに真白を守ったのだ。



 



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