勧誘と視察
一芯はともかく、相手に言いたいことを言わせてみることにした。
例えそれが敵陣営の人間であっても。
「…と、いう訳でだな。ぼんちゃん。俺はリア充に対する世情を解った気がした。だがまあ爆発しろとは言えんし、ほら、上様も美羽様も前生の御最期があれだから、ちょっとあれだし。火関係はちょっとな。で。いーいなあ、と思う程度以上にならん為に、ここに避難してみた訳なんだがしかし」
力丸は一芯の隣に座る薫子を見た。
「ここにはここで南ちゃんがいたという落ちだ」
「信長公たちのリア充ぶりから逃げる為だけに来ちゃったの?僕のとこに?」
「うん。来ちゃった!」
「りっきーってさあ…」
猿並みではなくて猿なんじゃないの、と一芯は言いたくなった。
一芯が伊達政宗で、自分が森力丸だという自覚はあるのだろうか。
「そっちの、誰?」
構わず力丸が右目で見据えたのは、窓際に立つ小次郎こと雪音だった。
彼の背後に見える庭は、雪化粧を既に落としているが、それはそれで濡れた艶やかな趣がある。
「弟の雪音だよ」
「弟?…てーと、竺丸小次郎殿かあ。じっきーで良いか?」
「可哀そう…」
「こじこ!」
「苛め?」
一芯が一層、呆れた目になる。
「雪音な、雪音。よろしく~南ちゃんもよろしく!俺のことはりっきーかランスロットで頼むな!二人共、探検団に興味は無いか!?」
「誰が南ちゃんだ!」
力丸が賑やかにマイペースなのはいつものことだが。
堂々と薫子たちを探検団に勧誘する態度に、一芯は嘆息を洩らした。
千丸は兄・長可と共に清涼飲料水からジュース、ホットコーヒーなど数種類の飲み物を抱えて竜軌たちのもとに戻った。
竜軌が些か不機嫌なのは、まだ美羽との二人きりを楽しみたかったからだろう。
だが長可は、主君の多少の勘気を恐れるような小心ではない。
部屋の床の間の前、上座に座す竜軌と美羽に跪き、頭を垂れた。
「森勝蔵長可、罷り越しました」
「ああ。顔を、美羽に見せてやれ」
スポーツドリンクをぐびぐび飲んで、竜軌が促す。
「は!」
「見ろ、美羽。こいつも派手迷惑だ。血筋という奴だな」
美羽と長可の視線が合うと、にこ、と長可が笑った。
白い歯がこぼれるが、蘭の場合、同じように笑うと際立つ爽やかさが、長可の場合は精悍さが際立つ。それでいて色気がある。
そして今までに対面した森家兄弟の誰より色黒だった。
〝初めまして。長可さん〟
美羽がメモ紙を見せると、長可が、どこか痛いような表情を一瞬だけした。
しかしすぐ、気を取り直したように口を開く。
「どうぞ長可とお呼びください。美羽様」
「りゅうき」
美羽は長可と呼んだ積りでそう発音してしまい、赤面した。
そんな少女を感慨深い瞳で眺める長可に、鬼武蔵の名残りは無い。
自室に戻った力丸を、携帯の画面から目を離した蘭が出迎える。
「あちらの様子は」
「こじこがいた」
「伊達竺丸小次郎か。…兄のもとにいたか」
「剣もそこそこ使えそうだったぞ」
「――――他には」
「南ちゃんが可愛かった」
「は?」
流石の蘭も、偵察に出した力丸のこの台詞までは、意味を捉え損ねた。




