無骨と健やか
「無骨に喰われたいやつあ、掛かって来い」
長可は十文字槍の切っ先を、品定めするように国王丸、次に義宣に向けた。
その動作一つを取っても長可がどれだけの修羅場を潜り抜けてきた猛者かが知れる。
知れる程度には実力を有するのが国王丸たちだった。
義宣が国宗を闇に帰すと、国王丸もそれに倣う。
無言の内に、二人は去った。
「おーおー。和泉守兼定はやっぱ違うなー」
人間無骨の銘を持つ槍の刀身は、二代目和泉守兼定である。
「彼らが退いたのは兄上が出てきたからですよ」
自身の得物を甘やかすように持ち上げる次兄を、嘆息して千丸が正す。
鵜丸は既に消している。
長可が来たからには大丈夫だという安心と信頼感が、ごく自然に千丸にそうさせた。
「蝶々のお姫さんは元気かい?」
「お元気だよー」
美羽の、帰蝶の頃と変わりない無邪気で快活な姿を思い出し、千丸は口元を綻ばせながら答えた。
末弟の顔を見て、長可も頷いた。
転生しても、主君の最愛の女性は健やかであらねばならない。
その頃、竜軌の最愛の美羽は、健やかだった。
すこぶる健やかに、竜軌といちゃいちゃしていた。
能楽の舞台で演じる竜軌に、美羽がまた何度目かの惚れ直しをしたからである。
竜軌が部屋つきのシャワーを浴びるのを待ち侘び、カチャリとドアノブの音を聴くや否や、出てきた彼に飛びついた。
竜軌は物慣れた仕草でそれを受け止め、片手で美羽を抱き上げた。
ちゅ、と美羽が竜軌の額にキスする。
竜軌は無言で顎を上げ、唇にと催促した。
美羽は素直にそこに唇をつける。
そのまま、畳に横たえられ、しばらくの間を唇だけで互いに触れ合った。




