森家二男
日頃の品行方正振りはどこへやら、千丸は斬り込んできた国王丸を、嬉々として迎え撃った。
竹虎と鵜丸から火花が散る。
この鵜丸は妖刀のように縁起の悪い刀であるが、千丸は好んでいた。
どちらも未成熟な身体である。やや、千丸が大きいくらいだ。
力丸は荒い剣術を得手とするが千丸は器用に、相手の刃に自らの刃を滑らせ、その喉笛を突かんと狙うから物騒極まりない。
国王丸もそこは察したようで、一度切り結んだあとは大きく後退して間を取る。
「それでは楽しめぬ」
千丸が追う。
国王丸を両断した―――――――と思ったのは残影で、国王丸は綺麗に宙をくるりと後転して着地した。
「おや。お坊ちゃまが器用ではないか」
「細作らに習うたのよ」
「乱破の真似事か。それは感心」
身軽に剣を繰る国王丸と剽悍な剣撃の千丸。
長引けば体力の劣る国王丸が不利。
そうでなくとも身ごなしを素早くしているのだ。
千丸より消耗は大きい。
「おおおおお!」
若い咆哮と同時に仕掛ける。
千丸が迎え撃つ体勢は十分だった。
が。
「国宗。共に歩もうぞ」
別の声。
金髪の少年が立っている。
「佐竹殿、助太刀は無用!」
「押されておるではないか」
「…ああ。佐竹次郎義宣か」
誰だと訝しんでいた千丸が思い当たって言う。
二対一となった焦りは無いが、不利な状況となったのは確かだ。
ずばり、それを指摘する声があった。
「そいつあちと不利だな。千」
千丸が振り向くと、自分によく似た華やかな美貌の、しかし趣は全く異なり無頼、と言った風な男が立っている。革ジャンが、彼の生き方をも表しているようである。
「長可兄上!」
鬼武蔵、と呼ばれ恐れられた猛将。森家の二男。森勝蔵長可が十文字槍・人間無骨を手にして磊落に笑っていた。




