微弱
微弱
ひたりと張りつく肌の熱がもう馴染んでしまった。
黒く長くうねる髪も、ずっと焦がれていたものではあるが。
(この状況は不本意だな)
しかし、美羽に身体を寄せられ嬉しくないことはない。餓えていた温もりだ。
ただ力加減が難しかった。
掌に乗る蝶は、指を折り畳めば脆く潰れてしまう。
熱情にブレーキをかけ、ただ柔らかく包まなければならない。
至難の業だ。
美羽と一つ布団に横たわり、竜軌は努力の夜を積み重ねていた。
顎の下に頭を寄せられれば髪を撫でてやる。
不安な目が泳いでいれば大丈夫だと言い聞かせる。
(この俺が。宮沢賢治じゃあるまいし)
そう言えばなぜうちには宮沢賢治の全集などあったのだろう。
埒も無い方向に考えが行く。
(親父の主義に沿うとは思えんが)
「…美羽」
上向く唇を予告なく奪う。蝶の唇は甘い。甘くてとめどなく欲しくなる。
嫌がらないので、何度か戯れるように唇をかすめる。
「…お前、嫌なら抵抗しろよ」
美羽は首を横に振る。大丈夫、ということらしい。
予想より平気そうだ。
(だが俺のほうが平気ではなくなる)
最後に一口、と唇を吸うと、美羽の身体を緩く抱いた。
大事な蝶から悪夢が遠ざかるように。
〝先輩。斎藤義龍の生まれ変わりを見つけたらどうするんですか〟
真白の問いかけが蘇る。
蝶の羽を引き裂き、粉々に砕いた男を。
(見つけたら?)
そんなこと、決まっている。




