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静かな火
静かな火
竜軌の部屋に集う面々は、それぞれ思案顔だった。
「そもそもどうして今頃、そんな昔の傷を思い出したのかしら」
「園遊会の日から様子はおかしかった」
真白の疑問に竜軌も気付いた点を挙げる。
「これは最悪の場合やけど……」
園遊会に出なかった荒太が推測を述べる。
「斎藤義龍の生まれ変わりと接触したとか」
荒太と真白は帰蝶の傷を知る。
怜が考え深げな顔で口を開く。
「園遊会の日、妙な人物に会ったことは会ったが」
竜軌は怜にも帰蝶の事情を明かした。
「どんな」
荒太の問いに答える。
「俺と同じ日本史の中世を研究している央南大学の教授。彼はずっと捜していた蝶を見つけたと言っていた。園遊会に来た甲斐があったと笑ってね。新庄は彼に気付かなかったか?」
「いや。そいつの詳しい素性は解るか」
「これが名刺だ」
「ふん、見込まれたな」
名刺を怜から受け取った竜軌は、それを平淡な目で見た。
平淡過ぎる目だった。
大事を前にした信長は、いつもこんな風だったと真白は思う。
猛々しく怒りを露わにするより怖い、静やかなる覇者の眼差し。




