一つ目竜と女の子 XXVII
時系列として、26とこの27との間に、「君と夏祭り企画」参加作品の『内緒の狐』(短編)があります。一芯と薫子の夏祭りデートです。よろしければお立ち寄りください。
サイドストーリー「一つ目竜と女の子」はこれにて完結です。
一つ目竜と女の子 XXVII
夏休みは気付けば瞬く間に終わる。
薫子は部屋の窓を開けて外の景色を眺めていた。
もう冷房の必要もないくらい、秋めいて来ている。
風が爽やかで夏のもたつきがない。
花火も渓谷も夏祭りも、一芯と過ごした時間は思い出のアルバムに仕舞われて、また次の季節が訪れる。
毎年の夏を、こんな風にして見送った。
幾つも幾つも、飛び立ってゆく蛍の光のように。
一芯と隣同士の家に生まれて本当に良かったと薫子は思う。
前生よりも近しく、一緒に育つことが出来た。
そのせいで、彼の右目を損なわせた事実はまだ胸に痛いけれど。
一芯の傍に居続ける口実に使えるという浅ましい考えもある。
夏祭りで買ってもらった白い狐のお面はこの夏の残り香。
四季を経て、一年ごとに一芯も薫子も大きくなる。
一芯はきっと強くて素敵な男性になるだろう。
戦の相手など見つけずに、ただ自分の隣にいて欲しい。
(でも、それでは物足りないと思うのが一芯だわ)
彼には望むように生きて欲しいが、怪我したり、ましてや死んだりなどは絶対にして欲しくない。
(あたしが一芯のストッパーになってみせる)
そして何度でも巡る夏を、一芯の隣で過ごすのだから。
涼しい曇天の下、蝉が最期の声を振り絞っている。
非力なのに一生懸命で。
大きな者に聴き届けてもらえるかも解らないのに。
自分に似ていると思った薫子の顔は、泣き笑いの手前のようだった。




