60/663
白い手は闇に招く
白い手は闇に招く
美羽は蝶になって逃げていた。
羽を懸命に動かす。
はたはたと、ひらひらと、死に物狂いで。
しかし逃げても逃げても、白い手が追って来る。
すらりと大きく、白く、滑らかな手が。
狩ろうとしているのだ。
昆虫標本を固定するように虫ピンで美羽を捕らえて。
その果てには暗澹たる闇が迫る。
〝帰蝶。私の愛しい蝶〟
〝私の愛しい〟
〝私の〟
いやだいやだいやだやめてやめてやめて。
「美羽っ」
呼びかけられて、ハッと目が覚めた。
パニック状態に陥った美羽は、とにかく滅茶苦茶に暴れた。
だがそのほとんどは竜軌の腕で封じられる。
「美羽、美羽!落ち着けっ。俺を見ろ!!」
両手首を掴む、相手の顔を見る。
真っ黒い瞳。
(竜軌)
それだけが全てであるかのように、美羽は渾身の力で竜軌に抱きついた。
その日から美羽は、竜軌がいなければ眠れなくなった。




