表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
595/663

月影清かに XXII

月影清かに XXII


 怜の意識は濁流の渦の中にあった。


 江藤怜のものではない記憶が雪崩れ込み、それに食い破られる寸前。

 食い破られたら、あとは狂うのみ。

 あらゆる光景が浮かび、それは消えぬままに増殖する一方だった。


 凄まじい情報量の圧。


 気が触れそうな怜の救いとなったのは、過去、近しく在った兄弟、妹の顔と声だった。

 そう、兄弟、妹だ、と今では認識していた。

 彼らの映像が意識に浮かぶ度、心に灯る光がある。

 光は怜の惑乱を鎮め、慰撫した。


 誰より大事な存在だった。兄と弟と妹を守る為なら何でも出来ると思っていたし、事実として大抵のことはやってのけた。


 太郎清隆。三郎。―――――若雪。


(太郎兄と若雪は好き合っていた…。俺は二人を小野家から、父上から解き放ってやりたくて……けれど父上に阻まれて…)


 二人は小野家に戻り、惨劇はその春に起きた。


 理由も解らないまま、殺された。


「ああ――――っ」

「怜!?」

 美園が叫び声を上げた怜の肩に触れる。


 なぜ、誰が、自分たちを殺した。

 あの時、ただ一人家にいなかった若雪は無事だったのか。


 こめかみを押さえながら怜は必死になった。


(思い出せ、思い出せ、思い出せ)


 頭は割れんばかりに痛み、怜にそれ以上の負荷をかけるなと警告を発していたが、彼はそれを無視した。

 濁流の中から探り出さねばならない。危険を冒してでも。

 記憶の再生に怜は死にもの狂いで固執した。


 若雪は生き延びることが出来たのか。

 太郎清隆を喪い、心を壊さずに済んだか。

 幸せになれたのか。


 次郎清晴は恋を知らずに死んだ。

 それゆえに、彼にとって最も大切な異性は妹の若雪だった。


 恋とは違うが真白い雪を思慕していた。


挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ