月影清かに XXI
月影清かに XXI
外は吹雪。白く冷たい花びらの乱れ舞う。
強風に病室の窓が悲鳴を上げている。
カタカタ、キシキシ、と苦しげに。
それでも今の怜程には苦しんでいない、と美園は思う。
恒二は兄の交際相手が美園であることを知っていた。
恒二より怜の症状を聴いてから、美園は怜の父母に頼み込んで可能な限り彼の病室で時を過ごした。
母である君江は渋り、美園の非常識を詰ったが、父の美邦は少女の懇願を無下にしなかった。交代で君江にも付き添いを譲ることを条件に、美園の願いを叶えた。
くれぐれも刺激を与えないように。
これは医師から下った厳命だった。
怜の神経を鎮める必要性を感じた医師は、彼に個室を用意して鎮静剤、解熱剤を投与した。
どの病院でもベッドの不足する昨今、奇特な処置と言えるが、それだけ怜の様相が切迫したものを感じさせたのだ。
ひきつけにしては年齢が行き過ぎている。重大な病気の端緒ということも有り得る。
癲癇かもしれないが、入院中にもっと詳細な検査をすべきだ。
怜を診た医師はそう語った。
熱は初期程でないものの、まだ下がらない。
昏々と眠る怜の額を、美園が何度タオルで拭っても、汗が浮いて来る。
眉間にはずっと皺が刻まれ、時々、歯軋りの音が聴こえる。
呻き声が洩れることもある。
(見ていられない)
美園は泣きそうだった。
左手にはお守りのように、怜から貰った銀色のピルケースを握り締めている。
ずっと固く握っているので、それ自体が熱を持ったように熱くなっている。きっと今、手を開いたら、銀の細工の凸凹が掌の皮膚に刻まれているだろう。
(そんな刻印が欲しいんじゃない)
「ねえ、怜。ピアスをくれるんでしょう?一緒に選んでくれるんでしょう?」
返事がないと承知の上で、かすれた声で語りかける。
その時、ずっと半月の舟のようだった怜の瞼が動いた。
「うん」
澄んだ光が美園に向かう。額にはまた、新たな汗。美園は光に縛られ、汗を拭うことも忘れた。
「――――怜、」
光は朦朧と揺れている。
「うん。…美園…」
ごめん、と呟いて怜はまた苦しそうに目を閉じた。
美園は両手で顔を覆う。
額に擦りつけたピルケースが痛い。




