月影清かに XVIII
月影清かに XVIII
包みを開けると、丸い金色のコンパクトミラーが出て来た。
白い薔薇の絵が繊細なタッチで描いてある。蕾と、花開いた一輪。
真白の顔にも笑みが花開いた。
「わあ、綺麗。ありがとう、剣護」
はしゃいでお礼を言う。暖房の効いた真白の部屋で、彼女の頭を撫でながら剣護は口元を緩めた。
「おう。俺もありがとな」
ついさっき、真白に掛けてもらったばかりのダークグリーンのマフラーをちょんちょん、と人差し指で突いて剣護もお礼を返した。編み目が整然と揃ったマフラーは真白の手編みだ。
真白がこそばゆそうに首を横に振る。
「だいぶ前から編み始めたんだけど、完成するのに時間かかって焦っちゃった。…彼女でもないのに手編みとかって重いかなーって思ったんだけど」
焦げ茶色の瞳が不安そうな上目遣いになる。
「重くないよ。暖かくてすげー軽い」
「良かった!」
真白はぴょんと剣護に飛びついた。
華奢な少女を抱き留めた剣護は、緑の目で彼女の髪を見つめている。
サラサラと滑る自分の髪と同じ色のそれが、こちらに靡いてくれるのはいつまでだろうか。
カラン、とストローが氷をかき鳴らす。
「イブを怜と過ごせるのって幸せ」
シックでモダンな色調のカフェの中で、ブラッドオレンジジュースを飲んで美園が言った。
彼女の目は窓の外のライトアップされた輝かしい光景ではなく、怜だけを見ている。
「恋人と過ごせるからじゃなくて、怜と過ごせるから。私、この先ずっとそう思うわ」
「うん」
「…プレゼント。ありがと」
「ううん。ああいうので良かった?迷ったけどよく判らなかったんだ」
美園は口端を吊り上げると、怜から貰ったピルケースを仕舞ったバッグの縁を愛おしそうに撫でた。
「一生大切にするわ。お薬じゃなくても、ピアスとか入れたりして」
「大学に入ったらピアスホール開けるんだよね」
「そのつもり。――――――初めてのピアスは、怜から貰いたいな」
小首を傾げて媚びるように、美園がそんなことを言うのは珍しい。
プライドの高い彼女は、貰えば受け取る、というのが通常のスタンスだ。
「良いよ。どんなのが良いか、その頃にまた言って」
「一緒に選んでくれる?」
「うん、解った。ジュース、寒くない?」
怜はカプチーノを飲んでいる。
「…熱が冷めるのを感じたくないのよ。悲しいじゃない」
怜には美園の言葉の意味がよく理解出来なかった。
今日に限って美園が将来を確定づけるような言葉を欲しがる意図も。
ただ、悲しいと言った美園の翳りを帯びた笑みを、怜も悲しいと感じた。
聖なる夜。
怜を訪れたのはサンタクロースではなく、前生の記憶。
惨劇の悪夢だった。




