一つ目竜と女の子 XVII
一つ目竜と女の子 XVII
二、三日して、薫子は気怠そうにぼんやりとした顔をすることが増えた。
宿題をする手も止まりがちだ。
「薫子、もしかして夏バテしてない?ちゃんと食べてる?」
「う、ん。ちょっと食欲なくて」
「―――――勉強ストップ。横になりなよ」
「うーん」
薫子は横にはならず、一芯の肩に額をこつんと置いた。
勝ち気な少女がだいぶ弱っているらしい。一芯は栗色の頭を撫でてやった。髪の毛から南国の果実の香りがする。シャンプーだろう。
体温が近いのは暑いが嬉しい。
「一芯」
「何?」
「寄り掛かって良い?」
「…暑くないの?」
「一芯はひんやりしてるから気持ち好い」
この言い分に一芯は笑った。
「僕は氷柱?良いよ」
少女の柔らかさが遠慮がちに添ってくる。
(今、成実が来たら血祭にする)
思わぬ美味しい展開を喜びながら物騒なことを考える。幸い、あの喧しい男は今日は出没していないが、油断は出来ない。
薫子は借りて来た猫のようにしおらしい。
一芯の首に額の湾曲をくっつけている。
抱き締めるキスする押し倒す。
あらゆる妄想が一芯の頭の中を駆け巡った。
「一芯は川みたい」
「え?」
うつらうつらしている響きの薫子の声が妄想を破る。ちょっと呂律が覚束ない。
「澄んだ川の流れみたい。昔から思ってたわ」
薫子の見方は美化されているように一芯本人には感じられた。自分の本性は濁流だと思う。
「……海か川に行く?」
「今、人混みきつい」
「じゃあ、静かな川に行こう」
「…ん」
本当にバテているらしく、そのまま寝入ってしまった薫子の身体を一芯は抱き上げると、自分のベッドに横たえた。
それから携帯を扱う。
「ああ、こーじゅ。どっか良い川知らない?」
写真のビーズ作品は以前、本編にも出しましたが、佐原一芯をイメージして作ったブレスレットです。




