月影清かに XVI
月影清かに XVI
青を基調としたチェックの、名門・陶聖学園の制服を着崩し。
両耳に赤いピアス。
黒髪の一房は赤いエクステ。
ファーストフード店内の人間から遠巻きに見られている少年は無表情に窓の外を眺めていた。観察者の目で。
視線の先には一人の少年。
(あれが江藤怜、か)
男の顔立ちが端整な造作であろうと、竜軌の胸には何ら感慨は湧かない。ただ自分のよく知る青年の派手な美貌とはまた趣が違うな、と多少は感心した。
「新庄さん、あいつですよ」
「うるさい。見れば解る」
「鬼つよっすよ。気を付けてくださいね」
竜軌は恨みがましい顔をした少年たちを見回した。わざとらしく小首を傾げる。
「気を付ける?意味が解らんな」
「いや、でも」
「お前らが早とちりして返り討ちにあっただけだろうが。俺にあいつと遊ぶ気はない」
「――――――新庄さんの為と思って」
竜軌は嗤った。
「俺が、頼んだか?」
低い美声と少年のものと思えない底知れぬ眼光に、周囲は押し黙った。
竜軌は鼻を鳴らすとテーブルの上のコーヒーを飲んだ。
(―――――前生での面識はない。が)
立ち居振る舞いからでも武芸の腕前は知れる。現代の微温湯に慣らされたぼんくらたちの手に負える相手ではない。
(加えて、神器持ち…)
竜軌の耳は、怜に呼ばれたがっている神器の声を確かに聴き取った。
傷ましく哀れな程に切望する声。主である怜は気付いていない。
(六王に見習わせたい一途さだ)
手駒に欲しいと思う。
同時に手駒に甘んじるような男でもあるまいと思う。
面白い奴を見つけたと、竜軌の唇が弧を描く。
竜軌はまだ、怜が前生で自分に仕えた若雪の兄の転生者であると知らない。




