表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
581/663

月影清かに XV

月影清かに XV


 格闘技教室で体術の基礎稽古を終え、いつもであれば応用の稽古に移るところ、杖術もやってみるかと師匠に問われた怜は頷いた。修められる武術は修めておきたい。師匠が勧めてくれたのも、今の怜であれば杖術もものに出来ると考えてのことだろう。百三十センチ程の長さの白木の棒を渡され、好きに動かしてみろと師匠が言う。

 傍で見ていた人たちは無茶ぶりだなあ、と怜に同情した。

 怜が滑らかな動きで自在に棒を繰って動く所作を見るまでは。

 お手並み拝見と腕を組んでいた師匠も驚いた。


 怜の動きは戦う相手が見えるかのように実戦的だったのだ。


 斜線に杖を構えて静止したのは一瞬。

 次にはそれを刺突のように鋭く繰り出し相手の得物を絡げ取るように回すと、更に先端で宙を貫く。

 師匠の目にはそれによって確実に動きを封じられた人間の喉元までが見えるようだった。


 怜はそれにとどまらず舞いに似た足運びで横に重心を移動させる。


 くるりと杖を旋回させる。

 ―――――相手の攻撃を妨げる。


 下方から上方に一気に杖を撥ね上げる。

 ―――――相手の攻撃を無効化させ顎に、杖による強烈なカウンターパンチが決まる。


 一対多数を想定した演舞を披露した怜は肩を上げて、下げた。


 冴えた双眸が師匠に向かう。


〝こんな感じでよろしいでしょうか〟


 そう言っているようだ。

(…この少年は)

 何者だろう、と師匠は思う。

 武術の素質に恵まれているのは知っていた。初めて杖を手にしても、怜であればそこそこ扱って見せるのではないかと期待したのも事実だが、これは期待以上だ。

 まるで幼少期から武術の稽古に励んで育って来た武家の子息のようだ。

 そしてまだ彼は、自らの力の使い道を明確に定めていない。最近の怜が何かに思い惑っているらしいことは察していた。


(あの子は、甘えて寄り掛かれる心の居場所を持つべきだ。守りたいと心底から希求出来るものを)


 今のままでは余りにも凍てついている。

 冬空に昇る凍った月だ。


挿絵(By みてみん)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ