月影清かに XIV
月影清かに XIV
いつか自分は美園をもっと嘆かせてしまうのではないか。
泣く美園を抱き締めた時、怜の頭をそんな疑惑がよぎった。
自分に対する疑惑だ。
気付けば陶聖学園で見た少女と少年のことを考えている。
二人の間にはとても親密な空気があった。
付き合ってるのかな、と思う。
そう思ってから、以前にも似たようなことを誰かを見て思ったような気がした。デジャビュのような。
プライドの高い美園が自分を求め、尽くしてくれるのを喜ぶ一方で、違う何かを欲する自分がいるような気がしてならない。美園の涙を自信を持って否定して拭い去ってやれないのはそのせいだ。
(…あの二人に、また逢えないかな)
自室や学校の教室で、そんなことを考える日が増えた。
成績に変化はない。頭痛がしたり気絶したりすることも今はないし、高校受験に向けての準備も怠りない。
変化しつつあるのは怜の内面だけだ。
降り積もる雪のように、何か得体の知れない物が身の内に巣食っていると、怜は自覚していた。
美園は敏感にそれを察して動揺している。最近では二人を隔てる薄い膜が出来るようで、彼女は目に見えて焦っていた。
そしてそんな美園を宥める一方で、怜はまた陶聖学園を訪れたいと望んでいる。
魂が、抗えない引力に招かれている。




