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月影清かに Ⅸ
月影清かに Ⅸ
次郎清晴は堪えろと己を叱咤した。
父である小野清連が娘・若雪の大器を認め将来を嘱望するのも、その兄である太郎清隆や清晴や弟・三郎にそれ以上を期待するのも止むを得ない。
厳しい言葉を浴びせられても耐えねばならない。
若雪の見る前で清晴が揺らげば、若雪はきっと自らを責める。
兄弟たちを苦しめると思って自分を責める。
〝妹にさえ勝てぬは、うぬが未熟よ〟
だからそう言われた時、清晴は平生の面を貫いた。
稽古を終えたあと一人、欅の大樹の陰で涙を拭った。
落ちる涙が憎かった。
朗らかで大らかな清隆は反発するゆえに父から疎んじられていたが、清晴は表向きは従順で気に入られていた。兄弟は皆、文武に優れていたが、清連は己に背くことない子を良しとした。
若雪の秀でた器量も武芸の腕も清連には利用するに足るものとしか映っていなかった。
従順を装い、清晴はそんな父親を疎んじていた。
母と妹・兄弟が守れればそれで良いと思い生きていた。
秀麗な容姿に悲喜を押し込めて微笑を浮かべた。




