月影清かに Ⅶ
月影清かに Ⅶ
金曜日の放課後、怜は私立陶聖学園の高等部に来ていた。
本命の正墺高校は合格圏内だが、評判の良い他の高校も見てみたほうが良い、と担任に勧められたのだ。文武両道で知られる公立琵山高校はもう見た。
陶聖学園はスポーツは今一つだが有名大学への高い進学率で知られ、清潔感と制服のデザインも生徒たちの自慢だ。同じ敷地内に中等部と高等部が共存し、中等部受験に合格した者はエスカレーター式で高等部へと進級することが出来る。よって、他校の中学生に陶聖学園は狭き門だった。
〝エリート養成に力を注いでるにしちゃ、あそこの校風は大らかで良いぞ。俺が学生をやり直せるんなら、通いたいぐらいだ〟
担任の教師はそう言って笑った。
樹木と芝生の緑は冬でも爽やかな印象を与え、白いベンチには寒い中にも腰掛けるカップルの姿がある。
正門からほど近い高等部校舎端には、ガラス張りのカフェテラスが外来の客からもよく見えるように設けられている。アピールしようという学校側の意思が如実だ。中にはまだ居残り、お喋りに興じているらしい女子生徒らの姿もあった。
(恵まれた環境だな…)
担任の願望に怜は同調した。
しかしこの学園は怜の家からはかなり遠距離で、遅刻しない為には一人暮らしをする必要がある。
そこまでして通いたいとは思わなかった。
帰ろうと踵を返した時、その声が怜の耳を打った。
「待って!」
反射的に振り返る。
「待って、剣護」
「しろ、おそーい。風邪気味だろ。早く帰って安静にする!」
コートを着た少年少女が仲睦まじそうに遣り取りしている。
少女は怜と同年くらいで焦げ茶色のショートヘアーに白い肌が目を惹く。
少年はやや年上だろう、少女と同じ色の髪は緩い癖があり、よく見ると瞳が緑であることが判る。彫りが深めの顔立ちといい、ハーフだろうか。
二人は立ち止まった怜の横を通り過ぎて正門を出た。
怜は二人から目が離せずにいた。
理由は自分でも解らない。
口から嗚咽が洩れそうになり、初めて自分が泣いていることに気付く。
(――――――何だ、これは?)
透明な雫が、怜の意思を無視してあとからあとから溢れ流れる。
自分の身を襲った不可解な事象に、外気温と関係なく背筋が冷える。
あてどなく誰かに説明を求めたい思いだった。
答えを探すように透き通った空を見上げた。
「剣護。さっき校門のとこに綺麗な子が立ってたね。他校生」
「美少女?いたっけ?」
「男の子だよ。…どこかで見た気も、するんだけど」
剣護が真白を一瞥する。
「俺の目が黒い内はお前に不純異性交遊なんて許さないからな」
「モノクロな言葉……。それに剣護の目は緑じゃない」
「屁理屈言うんじゃないの!そんな子には粥なんて作ってやらんぞ」
「でも緑だもん。綺麗な」
「…はいはい」
剣護は真白の髪の毛をわしゃわしゃと掻き回した。




