一つ目竜と女の子 Ⅵ
一つ目竜と女の子 Ⅵ
「一芯の莫迦ぁー」
ダンゴ虫のようにベッドに丸くなった薫子に、一芯は不当な八つ当たりを受ける。
「…女の子って大変だね」
「莫迦!」
事情をお見通しで返した一芯の台詞に、薫子が紅潮して叫ぶが、まだ彼女はダンゴ虫のままだ。
生理痛の重い薫子は、毎月数日、床やベッドに転がって過ごす。
「ううーん。もう、男に生まれ変われば良かった…」
「それ困るから。痛み止めは?」
「飲んだ~」
「効かないの?」
「ひどい時は」
「薫子、前生はそんな苦しんでなかったよね」
「政宗に見せてなかっただけ。月のものが来なくなってからはすっごい楽になった」
弱っているぶん、薫子はいつもより素直に本音を明かす。
大きなスヌーピーのぬいぐるみにしがみついている姿も、子供っぽい。
(…スヌーピーじゃなくて、もっとしがみつくに適当な存在が)
ここにいるのに、と思う。
耳が垂れて白くてお腹が出てないといけないのだろうか。
一芯は少女にしがみつかれている犬のぬいぐるみに、ちょっと妬いた。
「…薫子。それ、ちょっと貸してよ」
「それって~?」
「スヌーピー」
「やだ!!あたしからこの子を取り上げる気っ?」
「君はいつからそれの母親になったの」
「ヌーちゃんはあたしの親友よ!」
「へえ、僕より親しいんだ」
「いっ……しんだって、あたしの、幼馴染よ…」
「ふうん」
一芯の声が部屋の冷房より冷える。
「ただの幼馴染かあ。それじゃ、ヌーちゃんに負けても仕方ないよね。何しろ薫子とヌーちゃんは一緒に眠るくらい仲が良いんだから」
にこやかな声はやはり冷えている。
へらへらと笑った顔で、一芯はさりげなく、薫子に勘気を示していた。
詰る所は男の嫉妬だ。
冷静な一芯が、「ヌーちゃん」に対抗心を抱いたのだ。
「だ、大事。大事な、幼馴染…」
「大事、ねえ。どんな風に?」
一芯は笑顔のまま追及を緩めない。どうせ弱ってるのなら「好き」くらいうっかり洩らせば良いのだ。そうしたら喜んで「ヌーちゃん」の代わりに薫子に添い寝してやるのに。
「兄弟とか、」
「兄弟?」
一芯の声が尖った。
「ううん、兄弟以上、」
「それってさ、薫子――――――」
「一芯…、」
「え?」
ドキリとする。
「いーたーいーよううううう……」
薫子は泣きそうな顔でぬいぐるみをますます強く抱き締めた。
「………」
出鼻をくじかれた一芯は、薫子の栗色の髪を撫でてやった。
自然の摂理とは言え、そういう逃げ方はずるいと思う。




