課題
課題
真白と一緒にお風呂に入っていると、今日はお疲れ様、と労われた。
ありがとうございます、と唇を大きくゆっくり動かすと真白は首を横に振り、実は私も園遊会に出てみたかったのよ、と答えた。それは違う、と美羽は思いながら、この優しい女性に感謝した。
「美羽さん、何か良いことがあった?」
訊かれて少し迷い、しかし結局、頷く。
「顔が明るいもの」
美羽は湯船から出ると、鏡に指を滑らせた。
文字を書く端から鏡面を雫が垂れ落ちる。
〝竜軌が、一緒に外国を回ろうって〟
そう書くと、気恥ずかしい思いで真白を見た。
「――――――そう。新庄先輩が。良かったわ」
真白は本当に良かったと思い、そろそろ引き上げ時かもしれないと考えた。
胡蝶の間を訪れた竜軌の浴衣姿を見て、美羽は首を傾げた。
〝どうしたの?〟
「今日はここで寝る」
次の言葉を書くまで一拍の間が開いた。
〝どうして?何を言ってるの?〟
「必要性を感じたからだ」
どういう理屈だと美羽は呆れた。まるで説明になっていない。
〝意味が解らないわ。出て行ってよ〟
「嫌だ」
頑なな態度と一方的な言い分にむっとする。
〝なら私が出て行く〟
それを実行しようとしたら手首を掴まれた。
「何もせんから一晩、泊めろ!」
声は懇願の響きを帯びていた。
しかし美羽は美羽で、竜軌がいたら眠れない、と胸中で悲鳴を上げていた。




