月影清かに Ⅳ
月影清かに Ⅳ
細い指が怜の髪をくしゃくしゃにして、もっと、とねだる。
怜は美園の肢体に赤い痣をつけたりしない。
衝動に従って動きはするが。
「…………ぁ…怜……」
「何?」
「嫌…、美園って呼んでよ」
「美園」
発音する唇を彼女のそれに被せる。応える美園に刺激され、怜のくちづけも深くなり、二人は深く味わい合った。
「時々、あなたの澄ました顔が憎らしくなるわ」
美園が怜の頬に手を添えて呟く。
「俺は、美園の声は可愛いと思うよ」
「―――――莫迦」
口にしたことは事実だ。
怜が相手だからこそ見せる、プライドの高い美園の睨んで拗ねる媚態も可愛い。
「その内、綺麗な肌を引っ掻いてやるんだから」
「良いよ?」
「顔に爪痕をつけるわよ。私の所有の証に」
「…うーん」
「困りなさい」
美園が笑う。
「お返しをしても良いなら良いよ」
「お返し?なあに?」
熟れた唇が子供のように笑んで尋ねる。
「君の額に赤い花を」
美園は寧ろ喜色を示した。
「くれるの?怜の、所有の証を」
「要らない?」
「ちょうだい、今、すぐ、」
「考えさせて」
「意地悪!」
美園が怜のしなやかな背中をつねった。それも甘えだ。彼女はいつも、怜を煽ろうと腐心している。前期生徒会長であるクールな美少女が、怜と逢う日には下着選びに工夫を凝らしているなど、学校の誰も思わないだろう。
(意地悪かな…)
痣をつけたら可哀そうに思えるのは。交際相手には、叶う限り優しく触れたい。
熱情に流されて傷つけるのは嫌だ。
「…いつか、怜が他の誰かの額に花を咲かせたら」
「美園」
「私、その誰かを刺しちゃうかも」
「君を傷つけたくないんだ」
美園は切なく苦しい双眸を怜に真正面から向けた。その言葉こそが自分を傷つけているのだという言葉を呑み込む。
「…傷じゃない。勲章よ。怜がくれるなら。まだ解らないの?」
理屈としては解るが、そこまでの心情に怜は至れない。
人は獣ではないのだから。
しかし美園は獣のように裸体を押し付けて来る。
奪えと。怜も抗わない。
再び、ベッドに沈む。
泣いているような美園の嬌声が上がった。




