あなたなしでは花咲かず
紛らわしいですがこれは本編です。
美羽と竜軌が京都に発ったあとの、蘭と聖良の携帯越しの会話。
あなたなしでは花咲かず
聖良はキラキラにデコレートされた携帯を取った。
「雪人さん。どしたのっ?」
聖良の声は弾んで髪の毛を右手の指にくるくる巻きつけている。
部屋のテーブルには結婚式場のパンフレットが山と積まれていた。
『聖良さん。実は私も竜軌様たちを追って京都に参る可能性があるのです。それをお知らせしておかねばと思いまして』
「何、それ。お邪魔虫でしょ」
『都で何が起きるとも限りませんし――――――』
「…過保護過ぎない?竜軌さんはもう大人じゃない」
多少の災難は涼しい顔で遣り過ごしそうな気がする。
『はい。ですが、私には私の務めがございますれば』
「………」
雪人の口調は飽くまで穏やかだった。
携帯を置いた聖良はベッドに仰向けになった。
仰向けになって、上から被さる雪人の顔を想像する。
聖良の名前を呼んで愛してくれる夜を。
彼の心は自分一色に染まってはいない。
〝私は戦いに身を置く男です〟
時代錯誤な台詞を今でも覚えている。自分を残して逝かないと約束出来ない、と続けた声も。
(何か。お侍さんみたい。ちょんまげな世界?)
凛々しさも生真面目な一途さも雪人には似合うけれど、愛する男には自分よりも大事なものなんて持っていて欲しくない。
(もしもあなたが死んだら。あたしはその先、どうやって生きれば良いのよ)
豪華なドレスもお洒落なチャペルもぴかぴかの新居も要らない。
安物の服だけでも爪の手入れが出来なくても、化粧品が買えなくてすっぴんで、水仕事で手が荒れたって構わない。
雪人が自分に笑ってさえくれれば、聖良の世界は明るくなって花が咲く。




