表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
550/663

一つ目竜と女の子 Ⅰ

この作品は、本編に登場する伊達政宗の生まれ変わりである佐原一芯さわらいっしんと、その正室・田村御前(愛姫)の生まれ変わりである光瀬薫子みつせかおるこの物語です。


本編では高校生である彼らが、中学一年生の頃のお話。


一芯は本編では382話「難しいよ」で初登場です。

一つ目竜と女の子 Ⅰ



「かおちゃんは好きな男子いる?」

「いない」


 中学一年の夏休み前、同じクラスの女子に訊かれた薫子は間髪入れずに答えた。

 含み笑いの相手が、一芯の名前を自分から引き出したいのは明白だったからだ。

「嘘、言わないでよぉ」

 濃くマスカラを塗った真由美は唇を尖らせた。そんな媚態を自分にまで振り撒いてどうする、と薫子は少し呆れた。

 今日も暑くて、セーラー服のブラウスが汗で皮膚と一体化するようで苛々する。蝉の声が教室の中にまでみんみんみいんとけたたましく響いて、何て煩わしいのだろう。


「嘘じゃないよ。まゆちゃんみたいに早く彼氏、見つけたいんだけど」


 そう言ってやると、真由美は虚栄心を満たしたように笑った。

 可愛かった。

 その笑顔に女子のプライド以外の純粋な「女の幸福」を見た気がして、薫子は微笑ましくも妬ましくなった。


 物心ついた時から好きな男子は佐原一芯、彼だけだ。


 自分のせいで、彼は幼くして右目を失くした。


 隻眼に眼鏡をかけた物静かな優等生を演じる一芯は、大多数の人間に地味な男子と見なされていたが、女子から「そういう眼」を全く向けられないかと言えばそうでもなかった。

 目敏く彼の美点を見抜き、好意を抱くごく少数の女子の存在に、薫子は怯えていた。


 そして自分を安心させる為に、薫子は幾つもの呪文を唱えた。


 あたしは一芯のお隣さん。

 あたしは一芯の幼馴染。

 あたしは昔々、一芯の奥さんだった。

 右目を奪った代償を理由に、あたしはいつまででも、彼の隣に居座り続ける。


 もし一芯に、どうして傍にいるのだと邪険に尋ねられる日が来たら。

 自分以外の女の子を横に侍らせて。

 その時、自分は胸が抉られた激痛に泣き喚きたくなるだろうけれど。


 だってあたしには責任があるから、と尤もらしく言い訳するのだ。





挿絵(By みてみん)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ