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暗雲、厭悪の原初

暗雲、厭悪の原初


 あとを追うように戻った真白の手を借り、着物からサラリとした麻のワンピースに着替えた美羽は気が緩んだ。

 そして気が緩むと、一気に疲労を感じた。

 自分で思っていた以上に神経を張り詰め、消耗していたのだ。

 それを自覚すると眠気に襲われた。

 押入れから掛布団を出してそれにくるまり、畳に直に寝た。

 窓際に胡坐をかく竜軌の背中を見ながらうとうとと微睡む。

 当たり前のように居座ってくれるのが嬉しい。

(…でもお父さんと揉めないかしら)

 孝彰の顔を思い浮かべると、ちくりと胸が痛む。

 痛むとそれを打ち消すような竜軌の強い声が、脳裏に響く。

〝お前は美しい〟

 怒ったような声で、ずっと昔も、自分にそう言ってくれた人がいた。

(誰だった……?)


 夢の中で、美羽は違う名前で呼ばれていた。

〝そなたは私の愛しい蝶だ〟

 狂おしく、そう囁く相手が、美羽は怖くて怖くて堪らなかった。

 けれどどこにも逃げ場は無かった。

 誰も助けてはくれない。

 武人とは思えない、すらりと白いその手が、美羽に伸びる。

 

 それは美羽を侵略しばらばらにした。

 美羽は虚ろに転がり自分は破壊されたのだと思った。

 世界を呪うしか術が無かった。


 飛び起きた美羽の背は、汗で濡れていた。額にも首にも汗をかいている。

 竜軌はまだ部屋にいて、驚いた顔で美羽を見た。

「どうした」

 彼が近寄り、伸ばす手を美羽は見た。

 白くもなく、すらりともしていない。

 けれど美羽は恐怖の名残りに怯え、思い切りそれを振り払った。

 竜軌は傷ついた顔は見せない。

 ただ眉をひそめて、美羽を見ている。

 その顔が誰かの顔に重なる。

〝お前は美しい〟

 言葉を飾らない、率直な。

 強くて孤高で。

(あなたは私がいなくても平気なんだろうと思ってた)

 自分の思考の意味が美羽自身にも解らない。



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