関ヶ原、ミトコンドリア
関ケ原、ミトコンドリア
美羽と聖良はすっかりメル友、仲良しになっていた。聖良は心許せる同性の存在にはしゃぐように嬉しい心持ちになっており、そんな自分が意外でもあった。美羽は「虚飾」という単語からは程遠い性分だったので、聖良もざっくばらんに気さくに接していた。蘭は聖良に美羽の過去を話した。聖良は痛ましい思いでそれを聴き、美羽の傷に触れまいと注意を払った。
美羽からある相談を受けた聖良は、ある物を持って新庄邸を再訪した。
女同士の話だからと言って、蘭と竜軌は胡蝶の間から遠ざけられた。
「これ。これなんか良いと思うよ、美羽さん」
美羽は藺草の上に広げられた色鮮やかで独特の形状をした布を見た。
〝布ナプキン?〟
「ううん。もっとすごい神器」
〝神器っ?〟
美羽は改めてピンクや青の花柄に目を遣る。これで切った張ったが出来るようには見えないが。中にナイフでも仕込まれているのだろうか。いや、蘭が聖良に神器の存在を洩らすとは考えにくい。
「そう。神器・ヒエトリパット!生理でもないフツーの日に子宮を温めるという優れもの」
美羽からどうすれば赤ちゃんが出来やすくなるか、と尋ねられた聖良が彼女の為に情報収集、探し出して来たアイテムだった。
「肌触りを考えて今治タオルを使ってあるの。使い心地も良いって。ホルモンバランスを整えるのが妊娠には大事な条件らしいから、普段から子宮を温めておくことでグッドな状態をキープ、コウノトリを呼び寄せるのよ!」
桃色と茶色のツートンカラーに塗られた長い爪が乗った人差し指を立てて力説する聖良に、美羽は力強く二回、頷いた。
しかし美羽がこれを着用することを竜軌が知ればどう思うだろうか。
解禁前でも彼に見られる可能性は大いにある。
(…関係ないかも)
自分のしたい行為の邪魔ならぽい、と脇に置くだけだろう。子供みたいに茶化すこともない。そんな時の竜軌は欲望にまっしぐらだ。
「でもぴったりしたボトム穿く時には気をつけてね。ラインが出ちゃうかもしれないから。それからミトコンドリアの活性化も大事。早寝早起き、ちゃんとした食事、運動」
美羽はまたまたこっくりと頷き、新しく出来た頼もしい女友達を尊敬の眼差しで見つめた。
そのころ、美羽に「関ケ原の合戦くらい大事なお話を聖良さんとするの!」と言って追い遣られて自室にいた竜軌は、煙草を吸いながらその「お話」を盗み聞きしていた。
(ヒエトリパット。ミトコンドリア…)
妊活と天下分け目の関ケ原が美羽の中では並列されている。
(……励むしかない訳だが)
どうにも複雑な心境になってしまう自分を竜軌は持て余していた。




