さくらもも
さくらもも
高校生の時に出逢ってから、と真白は唇をそよがせた。
「荒太君のことが好きだった」
荒太が布団の中からその唇に指を伸ばす。
「俺は真白さん以上に真白さんに熱を上げてたけど、良い子ぶって嫌われないように注意してたよ。猫を被った俺に真白さんが気を許してくれるの見て、気が咎めたりもした。…早くこんな関係になりたいって、ずっとジリジリしてたんだ」
指先で真白の唇を弄ぶと、白皙の頬に桜色がふわりと浮く。
ほつれたままの焦げ茶の髪が白い肩に小川のせせらぐように流れ浮いている。
唇をいじられるのに妻が弱いのだと知りつつ、荒太は花びらを撫でむしるように触り続ける。桜色が火照って行く。荒太にこれを快感と知られていることが真白には恥ずかしかった。
真白が思い切ったように目を瞑り荒太の指先をぺろ、と舐めた。桜より濃い桃色の舌が小さな逆三角を見せ、引っ込む。
「え。ま、真白さん。反撃のつもり?」
「うん、え。あ、ま、間違った?し、仕返しって言うか。荒太君が苛めるから、」
「仕返しオーライ。もっと舐めて」
荒太がずいと身を乗り出し右手を真白の口元にあてがう。
「い、嫌。やっぱり間違ったのね。もう舐めない!」
「じゃ、もっと苛めます」
真白の唇は荒太の指の総攻撃を受けて散々になぶられた。
「…こうたくん」
唇をきゅ、と噛み締め、桜から桃の色に移り変わりつつあるかんばせで、真白が憤りと懇願を籠めた哀調で名を呼ぶ。
「………真白さん、舐めて」
真白は弱々しく夫を睨みながら、長い人差し指と中指の先端、指紋の端の丸く傾いた箇所をそ、と舐めた。辱めを受けている嫌悪感と荒太に募る愛情が真白の胸中で入り乱れていた。荒太は舐められた指先を自分の口に運んで自分も同じように舐めた。
「…間接キスしただけなのに、そんなに怒る?」
上目遣いにおかんむりな妻を見る。
「間接、って、だってじゃあ、荒太君なら平気なのっ?」
言った瞬間、真白は自分の迂闊を呪いたくなった。案の定、荒太はにっこりと笑った。
「もちろん。貸して」
言うや否や真白の右手を取り、桜貝のような爪の先から指と指の谷間までを舐め始めた。時折、甘く噛む。真白は狼狽えて火照っておたおたした。
「荒太君荒太君、もういい、もういいから、やめて」
「やだ。ダメ」
しかも荒太は犬や猫のように、わざと音を立てて真白の指をぴちゃぺちゃとねぶった。
濡れた音に真白はますます恥辱を感じ、頭の中は紫と桃色が熱されて渦を巻くようだった。荒太が指から舌を退くと唾液が細い糸を引く。自らの唾液に塗れた真白の白魚のような手の指を見て荒太は笑みを浮かべて悦に入った。
「――――――真白さんって色事について学習しないし勘も鈍いし。そんなんじゃ俺にいつまでも勝てっこない。好きなようにされちゃうよ?」
「荒太君は優しいのにどうしてこ、こういう時は意地悪になるの」
「真白さんが俺を狂わせる」
荒太はきっぱり言うと真白の手を離して布団をめくり、白い胸の先端に口でつまむように触れた。
「…荒太君っ?、もう朝だよ、…」
「言ったでしょ?京都に行っても俺を忘れないようにって」
もがいて離れようとする真白の身を捕らえる荒太の腕は万力のようだった。
「逃げられないよ、真白さん」




