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諳んじる

諳んじる


 ざわり、と人の波が揺れたように美羽は感じた。

 音と言うよりは気配が鳴ったと。

 目の前に立つのは品の良い、壮年の紳士だった。

 新庄孝彰。

 竜軌の父。

 やはり親子だ。竜軌と顔立ちが似ていると改めて思う。

 竜軌の顔から荒さを削ぎ落し、年月の重みを加えると孝彰の顔になりそうだ。

 竜軌は微笑んだ。完璧な微笑だった。

「こんにちは、父さん」

「やあ、竜軌。こんにちは、美羽さん」

「良い日和で何よりですね」

「そうだな。美羽さん、見違えるね。文子が自慢していただけのことはある」

 美羽は謝意を表して頭を下げる。

 竜軌と孝彰の会話は、親子のそれとは思えない。何て他人行儀なんだろうと美羽は思う。

 二人芝居を見ているようだ。それぞれが納得ずくで、役割を演じている。

「家で不自由は無いかな。竜軌は君に無理を言ったりはしていないだろうか」

 美羽は首を横に振って答える。

 孝彰の目が細まる。

「そうかね。では園遊会を楽しんで。疲れたら早めに退出して構わない」

 美羽はまた小さく会釈したが、竜軌の身体からピリ、と放電されるものを感じた。

「その時は僕も下がらせてもらいますよ」

 和やかなまま、孝彰の目が息子に向かう。

「お前は自分の務めを果たさなければならないよ」

「美羽同伴であれば果たしましょう」

「お前の我が儘を彼女に強いるのは感心しないな。それに婚約者などという軽率な言葉は、美羽さんを困らせるだろう」

「この我が儘の為に生きて来ました」

 竜軌は気負いなく告げた。

 孝彰と美羽の目が同時に大きくなる。

「…では好きにしなさい」

「お言葉に甘えます」



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