若木
若木
竜軌は一晩中、美羽を守るように固く抱き締めていた。雨に打たれた獣が身を寄せ合うようにして微睡み眠った。竜軌は美羽が泣いて泣いて涙が枯れ、くたりと脱力して寝入るのを見届けてから自らも目を閉じた。美羽の悲しみを思い遣ると竜軌も辛く悲しくなった。強がりでなく、美羽を苦悩させる子供など要らないと思った。
美羽の肩、背中と腰は柔らかくて細く頼りない。竜軌が両腕を回せば細い幹のように余る。
地上で最も愛おしむべき一本の若木だ。
濡れ羽色の葉が波打つ。
(美羽。俺がいてやる。ずっと一緒だ)
泣くなと言うのが無理な頼みなら共に涙を落としてやる。
独りで泣くより寂しくなかろう、心にかかる圧も少しばかりは減るだろう。
夜の帳を縫って雨が唄うのが聴こえる。
時雨だ。
美羽の涙に釣られて降り出したのか。
しとしとしとしと、と竜軌の秀でた聴覚にその唄が届く。
美羽の泣き様はそんなささやかなものではなかったが。
湿った唄を耳に、若木を後生大事に抱き締めて竜軌も眠りに就いた。
美羽は瞼を微かに動かした。
腫れぼったくて重い。開けにくい。
開ける前に額から頬にかけて大きな手に撫でられた。
「おはよう、美羽」
「りゅうき」
声もちょっと嗄れている。目の前の竜軌の瞳はいつにも増して愛情と慈しみに満ちていた。優しい。命懸けで優しくすると決めているみたいに。竜軌の左腕はまだ美羽の腰にある。背中から腰にかけてゆっくりさすってくれている。性的に欲しがられる動きではなく。温かい。
心臓をねだれば平気で差し出しそうな顔がある。
何だ、と美羽は思った。
何だ、幸せだ。竜軌がいる。
それ以上は理屈ではなかった。
朝、空に太陽が昇るように竜軌が傍にいる。
(幸せ)
なのにほろりと出た雫を、竜軌が熱い親指で拭ってくれた。




