表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
514/663

別の女

別の女                              


 夜、電気スタンドの明かり一つでも、美羽が華やぎ笑うのが判った。

「りゅうき、だいすき」

 蝶は満開の花だった。喜びほころぶ。

 竜軌の右腕を宝物のように抱えて離さない。

「……」

「だいすき、だいすき」

 竜軌の右掌に美羽の歯と舌が触れる。仔猫のように舐めて来る。

 竜軌は無表情だが頭の中まで無表情ではなかった。

(隠忍自重隠忍自重隠忍自重)

 お経のように唱えている。美羽は仔猫のように掌を舐めるのをやめない。

 いつものお返しだろうか。それとも子作り宣言がそんなに嬉しかったのだろうか。

 竜軌の脳裏には望みながら子を授からなかった帰蝶の嘆きがあった。彼女の望むものなら何であれ与えてやりたかったが、こればかりはどうにもならなかった。他の女は孕むのになぜ帰蝶だけは孕ませてやれないのかと思ったりした。子供は格別、好きでもないが嫌いでもない。美羽が願うなら叶えたいし、自分との赤ん坊を抱かせてやりたい。

「…なあ、美羽。子が出来たとしてなんだが」

 美羽は舐める行為から掌に頬擦りする行為に切り替えた。これはこれでくすぐったい。

「俺はお前ほど、子供を可愛がってはやれんと思う」

 美羽の頬が止まる。

「出来てみれば変わる男もいるそうだが、どうも俺はその類ではないらしい。血を分けた子に注ぐ愛情が欠落しているようなんだ。…昔を鑑みるにな」

 美羽が枕元のメモ帳とペンに手を伸ばす。

〝私との間の子、かわいくなかった?〟

「―――――――いや」

 竜軌は言葉を探したが、結局は正直に告げた。

「すまない。お前は子を産まなかった。産んだのは別の女だ………」

 美羽の顔が白く凍った。

 氷の華になった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ