焦熱浄土
焦熱浄土
靴屋から帰宅して、竜軌は檜の香る浴槽の中、バスタオルを巻いた美羽の腰を後ろから抱いて尋ねた。左足甲の傷も、濡らして構わない程度まで回復した。
「美羽。解禁後の話だが。お前、子供は欲しいか?」
低い美声が湿気を吸い込み、色艶を増して響く。しかも内容が内容だった。
美羽は湯の中、お腹の前にある竜軌の大きな手を見た。右腕一本で軽く美羽など抱え上げられてしまう。その手が撫でる、お腹の下方に生命が宿ったら―――――――?
(竜軌と、私の間の)
赤ん坊。夢のようだ。願うことを躊躇うくらいに。
怖かったが美羽は小さく顎を引いた。
「そうか。美羽が望むなら努力しよう」
竜軌はのんびりと応じたが、そう言われると美羽は無性に恥ずかしくなってしまう。
(どどど。努力)
しくじった気がした。
今まで以上に竜軌が言い寄ることを可能にする、言質を取られたような。
そしてそれがまた嬉しいのだから始末に負えない。
心臓がどくどく鳴る音が、背中を通して竜軌の巖のような胸板に伝わっているだろう。
「だ、…いすき」
茹でダコが墨を絞り出すように言う。美羽の顔は火照り真っ赤だった。お湯と竜軌への熱と竜軌からの熱で茹でられた。
「愛している」
竜軌は「大好き」の段階をすっ飛ばした。美羽の身体に回した腕の力を強め、美羽のうなじに自分の額を押し付けた。反射的に美羽は身体をくねらせたが、首筋に輪郭のしっかりした厚い唇が押し当てられると停止した。
甘噛みして舐められて。それらを首の後ろの一点に美羽は感じていた。
「俺は愛している」
耳たぶを噛んで囁き落される。
「お前を。美羽。燃やしてやる。俺の火で燃やす」
焦熱浄土。




