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お使い

お使い


 修羅を知り修羅に染まらぬ花がある。


 天空に舞う雪のように敢然として。


 それはずっと荒太の目に痛ましく映っていた。

 けれどだからこその真白なのだ。


(血も肉塊も蛆虫も。醜怪、醜悪の極致も真白さんは知っているのに)

 悲しげな眼で現を見つめ心痛を堪えながら、尚も正しくあろうとする。泣いて心が千切れそうになっても諦めず手放さない。

 俗人を自覚する荒太には、神の眷属であることを抜きにして、真白はその心の在り様からして奇跡のような存在だった。前生でも今生でも否応なく惹かれ捕らわれたのは必然だった。

 

 雪白は自分だけに染められて、融けるのであれば自分の腕の中だけで。

 意地悪して困らせるのも泣かせて喘がせるのも自分だけ。


 余人に侵すことは許さない。

 

 まだ養生が必要な為、ベッドの上に気怠く寝そべり、荒太は携帯を耳に当て、相手が出るのを待った。

『おー、何だ、荒太。俺、トイレ行きたいんだけど』

「剣護先輩、お使い、頼まれてくれませんか」

『お駄賃にお釣り貰っても良い?』

「費用は全部、俺が持ちます。お駄賃が欲しいならあげますよ」

『費用??』

「京都の、錦小路にある『有次』って店で天麩羅鍋と灰汁掬いを買って来てください」

『拘りのお店なの』

「俺らの前生のころからある老舗ですよ。名品が揃ってる。自分で行った時には、包丁を買いたいと思ってるんですが」

『ん、了解』

「…三条通に『石黒香舗』っていうお香の店があります。有名だけど静かで小さな店構えなんですが。そこで真白さんに似合いそうな匂い袋も買ってください。匂い袋専門店で良品が置いてあります」

『請け負った。荒太。お前さ』

「何ですか」

『案外不器用だし、案外度量がある男前だよ。しろが惚れる訳だ。じゃ、俺、京都の前にまずトイレに行って来るから』


 荒太は静かになった携帯を布団に叩きつけた。白い羽毛布団に受け止められた携帯のボディに大したダメージはない。

 けれど荒太の心には自分で選んだこととは言えダメージがあった。

 体調と体力さえ許せば、自分こそが是が非でも真白に付き添ったものを。



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