ザリガニその他
ザリガニその他
朝林秀比呂の騒動で、美羽の誕生日である十一月二十一日はうやむやに過ぎてしまった。因みに蠍座だ。
竜軌は美羽に誕生日プレゼントのリクエストをリクエストした。
何でも聴いてやるとは言ったが例外はある。ザリガニ、ウーパールーパー、オオサンショウウオは却下した。美羽は愛らしい膨れっ面で、竜軌のドけちと紙に書いた。
「お前は幼稚園児か。もっとムーディーなものを言わんか」
竜軌は美羽の膨れた頬を右手でむにゅ、と挟んだ。
そうされるとむん、と唇を突き出した形となり、ちょん、とついばまれる。
「んー」
「もっと欲しいって?」
〝色々考えてるの!邪魔しないでよ〟
竜軌はつまらなさそうに美羽の髪をいじった。
「りゅうき」
〝何か芸とかできないの?特技とか〟
「ピアノはもう指が動かん。バイオリンもろくな音が出まい」
ぼんぼんの習い事だわ、と美羽は感心しながら思った。
聴いてみたかった気はする。
〝じゃあタップダンスとかムーンウォークとか〟
「興味ない。社交ダンスなら出来る」
ぼんぼんめ!
他の女性の手を取って、竜軌がくるくる踊っていたと考えるとむかっ腹が立つ。
「あとはまあ、龍笛とか能楽を嗜むくらいか。バイオリンよりは性に合ってる」
〝りゅうてき?〟
「横笛だ。雅楽の。りゅうはどっちの漢字でも良い」
〝吹けるの?〟
「そこそこな」
〝お能、舞えるの?〟
「そこそこな。笛も能もプロには笑われるレベルだ」
〝聴きたい、観たい〟
美羽は怒りも忘れて目を輝かせた。
「能は足が治るまでは無理だ。美羽が望むなら、今晩、笛は聴かせてやろう。月が出るらしい。丁度良かろう」
月を背景に、竜軌が貴公子のように竜の字を持つ笛を吹いてくれる。
心躍る、嬉しいプレゼントだ。
「りゅうき!」
「おっと、」
満面の笑みで飛びついた美羽を竜軌が受け止めた。
「りゅうき、だ、…い、すき」
「――――――美羽」
「だ、いすき」
「…初めて、言ってくれたな。美羽」
「だいすき、」
「俺のほうが先に貰ってしまったか」
がし、と竜軌は美羽を抱き締めて荒々しく頬擦りした。




