※舞台の袖
これまでのあらすじ。
前生での妻・帰蝶の生まれ変わりである美羽をやっと取り戻した竜軌。
不器用ながらも心を通わせる二人。
竜軌の母・新庄文子の提案で、美羽は竜軌と共に園遊会に出席することになる。
舞台の袖
これは真白さんに、という言伝と着物の入った畳紙が真白の部屋に届けられ、荒太のリクエストは叶わないものとなった。
園遊会の日は晴天だった。
真白に着付けしてもらった美羽を、竜軌が迎えに来た。
ワックスかムースを使ったのだろう、長めの黒髪は一筋の乱れもなく整えられ、いつもの赤いエクステも外している。
黒い麻のジャケットを羽織り、品の良い光沢のある黒のスラックスを穿いている。
銀とグレーの中間のようなネクタイは絹だろう。
真っ黒な髪と目が、いつもとは異なる日本美を感じさせる。
(――――令息)
そのままだわ、と美羽は思った。
しかし中身はどこまでも竜軌だった。
にやりと笑う。
「見惚れたか」
美羽は図星と悟られまいと、紙に文字を書きつけた。
〝キザな格好よね。ホストみたい〟
くす、と笑ったのは、竜軌の後ろに真白と並んで立つ青年だった。
「お前、可愛くないぞ」
不平を言う竜軌の前に、その青年は進み出た。
「いや、的を射た表現だったと思うよ。どうも初めまして。俺は真白のエスコート役に呼ばれた、江藤怜です。成瀬とは同じ大学の四年なんだ。よろしく」
会釈しながら、綺麗な男の人だわ、と美羽は思う。蘭のように華やかな美貌とはまた違う端整な顔立ちは、どこか真白に似ている。血縁だろうか。
柔らかな印象を与えるライトグリーンのジャケットに、同じ色のスラックス。首には濃紺のネクタイを締めている。
〝初めまして。よろしくお願いします〟
秀麗な顔が、心得ているように微笑んだ。




