忍び二人
忍び二人
「どうだ、兵庫。そちらは」
「無理、無理。どだい、話に無理がある」
「お前、最初から投げてかかっているのか」
「投げたくもなるだろ、黒羽森。なんせ、手がかりは〝女〟であること。〝みわ〟と言う名前かもしれない、ってことの二つだぜ?俺たちがいくら優秀だろうと、不可能はあるさ。違うか、弁護士先生?」
ふー、と兵庫が紫煙を吐く。黒羽森はそれをじっと見て、愚直に重い口を開いた。
「…だが、主命だ」
「違うだろ、主人が請け負った、命令だろ。しかも交換条件だ。厳密には主命とは言わないよ」
「手を抜けば、真白様と荒太様が信長公に侮られよう」
黒羽森の言葉に潮騒が混じる。
「…俺の勘では、このあたりが臭かったんだけどな」
「ああ。公も先日までこのあたりにおられたとか。頼みの綱は引き寄せあう縁の引力か」
海猫の舞う重い空を、片手に煙草をくゆらせながら兵庫が見据える。
「――――――――遠くはない。俺はそう睨んでる。あと何か一つ、突破口が欲しい」
「突破口か…」
ふと兵庫が笑う。
「どうした」
「いや、昔っからこんな時、突破口を指し示してくれるのは、大体、若雪様…、真白様だったと思ってね」
「そうだな」
黒羽森の口元も和む。
灰色の空、灰色の雲。
砂浜に立つ二人の男は先行きに光明を求めていた。