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百花百獣

百花百獣


 風呂から上がった市枝は絹のパジャマにガウンを引っ掛け、爪の手入れをしていた。部屋は暖房で熱いくらいだ。温暖化等地球環境の悪化に頓着しないのは竜軌との共通点だ。

 デコピンをするから来い、と竜軌に言われたのは火曜日のこと。

〝自分から素性を明かす奴があるか、莫迦。しかも神器の所有まで喋りおって〟

 情報戦の何たるかを自覚しているのかと叱られた。

 聴いていたのか、と市枝はばつの悪い思いもあったがのこのこ新庄邸に出向いたりもしない。


 い・や・じゃ。


 そう言って通話を切った。あっかんべーともそのあとに言った。地獄耳の兄には聴こえていた筈だ。

 やすりで磨いた長い爪は艶やかに光る。男の皮膚を抉れるくらいに長く鋭い。百獣の王の爪のごとくあらんと市枝は望む。神器・百花は金地に、雪中に咲く大輪の牡丹が描かれた扇だ。牡丹は百花の王と呼ばれる。

 極め、君臨することに興味などないが損なうことの許せないものはある。

 

 真白の前生である若雪との、最後となった文月の夕暮れを今でも覚えている。


 季節外れの迷い蛍の光跡と共に。


(―――――儚き世であった。今よりも尚)

 トップコートだけを塗った爪にふっと息を吹きかける。他はネイルサロンに任せるつもりだ。

 市が賤ヶ岳で自死したのち、若雪も数年後に病で没した。

 前生でも今生でも、真白は市枝にとって掛け替えの無い大事な存在だ。

 自分が男であれば荒太など突き飛ばして嫁にしていた。

 市枝にとっては真白こそが花の中の花。百花の芯たる女性。

「百花。そなたなら解ってくれるであろう?」

 竜軌と違い、市枝には神器の声を聴き取ることなど出来ないが、百花は必ず同意していると市枝は信じていた。

 文月の夕暮れ、市は形見のつもりで百花を若雪に手渡したのだ。



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