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骨の髄

骨の髄


 夕食後、檜の浴槽の中でも、美羽と竜軌はかなり際どい触れ合いをした。

 竜軌は、美羽の知らないことをたくさん知っていた。美羽はそれに応じたり、赤い顔で拒絶したりした。バスタオルは途中から剥がされて、それから。何てことをしようとするのだ、と美羽が拒んで慌てて逃げると、まだ左足を湯には浸けられない状態で浴槽の縁に置き、子供を見守るような瞳で見つめて、竜軌は美羽を落ち着かなくさせる。そんな恥ずかしい、行儀の悪いこと、出来ない。恥ずかしい。今でさえ自分があられもない女に思えてならないのだ。

 だが竜軌はそれを望んでいる。これ以上、あられもない女になれと。

 大人の男女にはそれが普通なのだろうか。


 竜軌は今、蘇芳の卓上のノートパソコンを扱っている。浴衣を着て、胡坐を組んだ彼の脚の上に、美羽も丹前を羽織った浴衣姿でのっしともたれかかっている。キーボードが打たれる音を聴きながら夜のしじまに甘えていた。パソコンを使う時、竜軌は遮光グラスをかけることがある。黒いフレームでレンズは透明なので、普通の眼鏡をかけているように見える。そして、そうするといかにも賢そうな空気が、途端に漂うから不思議だ。ヤクザな竜がインテリに。

 美羽はそんな竜軌の顔を下から横目で見上げるのが好きだった。

 すりすり、と頭を脚にこすりつける。

「美羽。どうせなら、もうちょい、身体をずらして、胸を乗せろ。…どうして怒る。あ、いや。良い。乗せたらまずい事態になると気付いた。…こら、すね毛を引っ張って遊ぶんじゃない。いたっ。抜くのは猶更やめなさい。俺は京都の旅館の予約やら店を調べたりしているんだぞ」

 知っているけど構って欲しいのだ。そんな機械は放っておいて。

 美羽は竜軌の上半身とパソコンの画面の前に、にゅっと割り込む。顔はもちろん、竜軌を向いている。

「いたずら蝶々め」

 怒ってないのは笑った目からすぐに判る。

「りゅうき、」

〝蘭、変じゃなかった?〟

 夕餉の膳を下げる前から、どこか物思う様子だった。

「変だったな。元々、変なところはあるが。森家は、どうもな」

〝どうしたのかしら〟

「好い大人は自力で問題を解決する。周りが口を出すのは僭越だよ」

 柔らかく言い含める口調で、竜軌は美羽の頭を撫でる。

(子供扱いして)

 大人扱いされ過ぎるのも困るが。

 こつん、と竜軌は美羽の額に額をつけた。それ以上は動かない。

 ただ目だけで、「愛してると知っているだろう?」と呼びかけて来る。


 骨の髄まで知っている。



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