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若葉マーク

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 蘭は自室の床の上でゴーギャンの画集を広げていた。

 竜軌から、美羽と京都に行くと聞かされた時は驚いた。

 京都は因縁深い土地だ。

 朝林家の菩提寺があることもそうだが、何より、信長と帰蝶の終焉の地である。

 美羽に悪影響はないだろうか。

 蘭に懸念するところは多かったが、竜軌が良しと考えたのならば自分がとやかく言う筋合いはない。竜軌と美羽が深く愛し合っていることは傍から見ても明らかだ。問題も困難も乗り越えられるだろうと、蘭も今では信じられるくらいになった。前生と同様、彼らは互いにぞっこんだ。

 独り身の蘭には羨ましくも眩しい。

 女性と愛し合う喜びを、蘭はまだ知らない。性体験と愛は別物として、蘭には女性という生き物に憧れがあった。身近な女性が美羽や真白であることが、彼の憧れを助長させてもいた。

 鬼小路聖良は可愛らしい。綺麗だ。

 蘭はそう思う。蘭の目にはそう映る。

 美羽や真白とタイプは違うが、可憐なお花のような女性だと思う。


(それにしてもゴーギャンは女性の裸体にしか興味が無いのか)


 画集を観ながら考える。

 今のところ、描かれた男性と言えばイエス・キリストとゴーギャン本人くらいだ。

 一般男性には全く美を見出せなかったのだろうか。それでも自画像なら描ける、という点はナルシストか、という疑問を抱かせる。自画像を観てもちょっと気取ったカイゼル髭の、ありふれたヨーロピアン男性としか思えない。

 自分の派手派手しい美貌にすら無頓着な蘭は、こうした男性の自意識にはただ「…変なの」くらいにしか考えられない。芸術家とは得てしてそんなものかと自分を納得させてみる。

(なぜ、聖良さんはゴーギャンが好きなのだろう)

 女性の肉体美を追求したような絵が専らの、恐らくは女たらしでナルシストの絵が。

 本人は恥じらうように、ああしたプロポーションになりたくて、と言ってはいたが。

(…今のままで、普通に可愛い)

 太り過ぎても痩せ過ぎてもいない。小柄だが健康的で、胸は大きく、腰はくびれてバランスが取れている。

(…小悪魔みたいな、コケティッシュな魅力がある)


 だが、言動は天使なのだ。

 なぜだ、と蘭は唸る。香水は濃厚でちょっと色っぽくてチャーミング。

 これで気性さえ、魔性であれば、明日にでも彼女の望む教会で結婚式を挙げるのに。

 その前に砕巖と海岸デートは必須だが。

(もっと謎なのは、私自身だ)

 小悪魔でない女性に、惹かれつつある。これはおかしい。セオリー通りではない。セオリー通りではないことは、普通、有り得ない。


 その美貌にも関わらず、恋愛初心者マークをでかでかと貼り付けたような男である蘭は、教科書に類例のない問いを前にした心持ちで、恋煩いを体験中である自覚に欠けていた。



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