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夫の愛嬌

夫の愛嬌


 藍色の結界に呼び出した飛空は最後に柄を掴んだ時より重く感じた。

 荒太は顰め面になる。予想にたがわず筋力が衰えていたからと言って何も嬉しくない。体重は四キロ減。目算より一キロ多く、筋肉、パワーが病床に持って行かれていた。筋肉の衰えは脂肪をも呼ぶ。身体が十全に食糧を受け付けるようになり次第、鬼のように喰らい、且つ動かなければならない。手始めに荒太は右腕一本で飛空を交差させ、風を鳴らした。それだけのことにすぐ息が上がり、情けなくなる。カジュアルな部屋着の、背中にたやすく浮く汗を踏みにじりたくなる。出来ない相談だが。

「荒太君!」

 叱声が飛んで来て、荒太は飛空を繰る手をびくりと揺らした。

「ま、真白さん――――――」

「私がハーブティー淹れてる隙に、結界に逃げ込むなんて」

 麻とオーガニックウールのタイツに白く太いズボンを三巻きほどして穿き、カシミヤシルクニットに紫のロングパーカーを羽織った真白は、優しげで綺麗な顔の眉間に皺を寄せ、唇をむ、と尖らせていた。右手には懐剣、雪華。荒太の創った結界内まで導かせたのだ。

 愛妻、愛らしくもご立腹である。それも愛ゆえに。

 荒太の脳内が「愛」のオンパレードとなる。荒太は飛空を鞘に納め、両手でちょま、と持って肩を心持ち竦め、上目遣いに真白を見た。妻よりだいぶ背が高いので、顎をうんと引いてのそれになる。

 真白は夫の可愛いポーズにう、と怯んだ。携帯で撮りたい、いや、ダメダメ、ここは彼の身体の為にきつく叱らなくてはならないのだから――――――――。

「ごめんなさい」

 更に可愛い声で謝られ、真白はぐぐう、と心中で唸り、悩殺されよろめきそうになった。忍びは芸人並みに声色を変えるのが得意なのだ。

「も、もう、ダメだよ、荒太君、帰りますよ。飛空も、戻してらっしゃい!」

「ええぇ~~~」

 それでも何とか諫言を口にすると、荒太は玩具を取り上げられる駄々っ子のように膨れた。

「やだ!」

「やだじゃないよ、め!」

「じゃあさ、真白さん、軽く、雪華で相手してよ」

「何を言ってるの」

「だからさ、軽く、かるーく仕合うだけで良いから」

「嫌、荒太君、ただでも戦い辛いのに、加減の仕方が解らないもの。それよりも!ベッドに戻って。日常生活さえまだやっとなんだからね、もう」

 真白は夫のおねだりを拒絶する。贔屓目抜きで腕が立つ荒太は愛する人であり、得物を持って対峙すれば真白とて本気を出さざるを得ない。手加減していなせるような相手ではないのだ。

 荒太がちら、と目の色を変える。何か秘め含むように。

「じゃあ、ベッドシーツの上で仕合ってくれる?なら帰ろっかなー」

「荒太君っ」

 赤面した真白が、聞き分けのない荒太に怒鳴った。

 荒太は臆せず恥じずに抜け抜けと続ける。笑みさえ浮かべ。

「それだったら今の俺でも真白さんを負かせるよ。汗で白肌に絡む焦げ茶色の髪は綺麗だろうね」

「こ、こ、こ、」


「おい、ちょっと邪魔するぞー」


 剣護の声と身体が降って来た。



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