燃ゆる水 塵灰を生ずれどなお
燃ゆる水 塵灰を生ずれどなお
美羽はぼんやりして虚ろに熱をはあ、と吐いた。身体中の至るところにまだ竜軌を感じる。とりわけ燃える埋み火のような箇所がある。燃えながら濡れている。
燃ゆる水の湧く。抱かれてはいないのに滾々と。
ボタンが全開のワンピースだけを着て、美羽は横たわり左半身を畳につけていた。下着はまだ遠いが太腿と太腿の間に風が吹くような涼しさはない。
寧ろ。寧ろ―――――――――寧ろ。
(竜軌)
座る竜軌の大きな手が、ずっと頭を撫でてくれている。時々頬にも触れる。低く口ずさんでいるのは前にも聴いた唄だ。
見初めざりせばなかなかに
空に忘れて止みなまし
私の竜が私の為に唄っている。私に焦がれる恋唄を。
〝朝林家の菩提寺が京都にある〟
文子との間で話題に上らなければ、竜軌は沈黙を貫いたのだろうか。
美女うち見れば
一本葛にもなりなばやとぞ思ふ
美羽は竜軌の手を握ると起き上がり、くちづけた。燃ゆる水の滾るに任せ。
本より末まで縒らればや―――――、
唄が途切れる。透き通ったブラックダイヤモンドが美羽を映し出した。
(ありがとう。竜軌)
美羽の目も竜軌を映している。
(あなたはきっと、いつかは私に教えてくれたわ)
言わずにいて悪かったと謝り、共に行こうと手を差し伸べる。
〝竜軌と琵琶湖を見たい〟
竜軌は文字を目で追うと軽く微笑み、美羽に頷いた。サーモンピンクの中央に走る白肌を見て愛おしそうに双眸を細める。
美羽は新潟の冬しか知らない。
古都に降る雪は美しいだろうか。どんな匂いがするだろう。竜軌の隣で見るのならば、初めての世界であっても恐るるに足らない。
(竜軌といられるなら炎熱地獄でも良い)
塵灰と燃え尽きて風に散らされても。
前述、『梁塵秘抄 信仰と愛欲の歌謡』より引用。




