内包物
内包物
竜軌はたまに美羽の前で考え事に沈む。
今も、文子から譲り受けた貴石のついた簪やら色鮮やかな組紐やらを蘇芳色のテーブルに置いて、それらに見入るでもなく視線は何も捉えていない。胡坐を組んで卓上に突いた左肘に体重を預けている。嬉々として貴婦人を訪問したにしては帰るだに沈黙している。
「美羽。お前、京都に行ってみたいか?」
ようやく竜軌の目が美羽を向いた。
〝べつに。どうでもいい〟
放っておかれた美羽は不機嫌に返事した。
「…朝林家の菩提寺が京都にある」
美羽の心が不意打ちに揺れた。
「朝林秀比呂の骨は無い。当然だが。あれの躯は結界と消滅したから。…だが」
竜軌は触れてはならないもののように美羽を見て、言葉を平淡に紡いだ。
その胸裏に何があるのか。
「だが美羽が知れば、空の墓前でも行きたがる。そう思って、お前には教えずにいた。怒るか?」
美羽は空気に遠慮する慎重さで、首を横に振った。
「りゅうき」
〝あなたと私は、昔、どこで死んだの?〟
「死に場所までは覚えていない」
〝お墓は?残ってる?〟
「あるような、無いような」
〝京都には?〟
「あるような、無いような」
美羽の目の前に座るのは大人の男で、突けば奔出せんばかりの記憶と思考を内に秘める。
はぐらかそうとされれば美羽には太刀打ち出来ない。
「京都にはろくな思い出が無いが、美羽が行きたければ行っても良いぞ」
つ、と突き放された気がした。
胸に霰が一粒落ちたような。
〝私、一人で?〟
「まさか!」
竜軌が夜の瞳を見張る。
「俺も行くに決まってるだろう。少し足を伸ばして、お前と琵琶湖を眺めるのも一興だ」
そう言われ右腕を伸ばして手の甲で頬を撫でられ、美羽は安心する。
強引に迫られるのは困るのに、指一本も触れようとされないのは寂しくてならないのだ。




