表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/663

欠片も残さず

欠片も残さず


「面倒なことになったな」

 洋服に着替えた美羽を部屋まで送るなり、開口一番、竜軌が言った。ドスン、と畳に腰を下ろし、脚を投げ出す。

〝堅苦しいパーティーなんて、私は嫌よ〟

「解ってる。今度の園遊会は政財界、学界関係者も集まる。まさに〝堅苦しいパーティー〟だ。くだらん。俺はここに帰っている以上、顔を出さないと親父がうるさいが、お前は仮病を使え」

 竜軌が脚を投げ出す横に座っていた美羽は数秒、静止する。

〝竜軌は、出るの?〟

「止むを得ん。鬱陶しく飾り立てられて令息じみた振る舞いを求められる。阿呆のようににこにこ笑って舞台で演じねばならん。まんま、道化だがな。…どうした?」

 竜軌の言葉は、美羽に生きて来た世界の違いを感じさせた。

 互いの間にある距離を。

 園遊会にはきっと良家の令嬢も参加して、竜軌は彼女たちにそつなく振る舞うのだ。

 他の女性に竜軌の、笑顔でない笑顔が向けられる。

 特別、自分に心を開いてくれる孤高の獣が、そんな風にして世俗に甘んじる。

 悔しいと思った。

 竜軌にはもっと自由な空気が似合う。人間の住まう矮小な世界より、野生の息吹が感じられる大地や自然のほうが、彼ははるかに楽に、しなやかに生きられるだろう。それだけの強さもある。

(竜軌は綺麗な、とても綺麗な生き物なのに)

 作り物の笑顔でも、美羽は譲りたくなかった。

 黒い輝きは自分だけのものだ。

 輝きが曇らないよう、汚されないよう、傍について自分が見張り、見守りたい。

〝私、園遊会に出るわ〟

 美羽の感情の揺れ動きを知らない竜軌が眉根を寄せ、訝しむ顔になる。

「やめておけ。不愉快な思いをするかもしれんぞ」

〝竜軌が一緒にいてくれるでしょう?〟

「……お前がどうしても出ると言うならそのつもりだが」

〝さっきのお着物でも、私、他の女の子たちに負ける?〟

 これを読んだ竜軌は勝ち気に笑い、自信に満ちた声で請け負った。

「それはない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ