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勿忘草

勿忘草


 成瀬家のリビングには、美羽から譲り受けた山尾専用の持ち手つき籠ベッドが置いてある。中には白いクッション。その上に両足に包帯を巻かれた山尾が仰向けに寝て、フェイスタオルをふっくらしたお腹に載せている。

「山尾」

 カーペットに膝をついた真白が呼びかけると、天井を向いていた金色の瞳が動いた。

「…ゆき…」

「――――…はい」

 似た名ではあるがゆきとは真白の前生名ではない。だが真白は返事をした。

「ゆき……ごめんな…すまなかった」

「…良いのです」

「すまなかった…弥太郎は、まだ四つであったのに、な…」

「良いのです」

「いてやれば、」

「良いのです」

「俺が傍にいてやれば良かった―――――――――。守り抜いてやれずとも、お前たちと逝ってやれば良かった。そうしてやれば、…そう、してやれば。それだけでも、」


 猫の目から涙が流れ出た。透明の髭が上下に動いていた。


「もう良いのです」


 震え声で答え、真白は柳眉を痛いように寄せた。毛並みを撫でることはなかった。今の山尾は耳の尖ったところから爪先、長い尻尾の先まで人間の心情でいる。

 山尾はしばらく仰臥のまま泣いていたが、眠りに落ちた。山尾の過去を知る真白には、彼の台詞の意味が解った。彼は悔いているのだ。もう今更、どうしようもないことで。真白も両手で顔を覆い、泣かずにはいられなかった。優しい猫の気持ちを想って泣かずにはいられなかった。



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