仕事仲間
仕事仲間
グラスを干した赤花火の目は綺羅と輝いていた。
怒るほどに輝く美女。清風より俗に光る星。
見映えはするなと思いつつ剣護は日本酒の盃を傾ける。
彼女は剣護を色事の相手とするのを諦めたらしく、居酒屋であっても迫ることはなくなった。代わりに恋愛遍歴をしゃきしゃきと述べては飲み、相手の男の人間性を毒舌で薙ぎ倒しては飲む。ウェットな口調でなくて助かる。
この女性の美点だろう。剣護は砂ずりの歯応えを堪能しながら肉汁を味わった。
「ダメ男なのがすぐ判る男はまだ可愛い。あんたみたいにね」
「ありがとー」
剣護はレバーの串に手を伸ばす。
「面倒なのはさ、ダメかどうか判りにくいぬらりひょんだ。情事のあとでもまだ判らない。ただのでくの坊な気もするし、それ以上な気もする。大将、焼酎お代わり」
「はいよ」
ロックかストレートかなど訊く必要もない。
赤花火が『さいさきよしのやわるいの屋』名物の、魚介と野菜がてんこ盛りのサラダを豪快に食べる。
美容健康にも気を遣っているのだろうか。
剣護は赤花火のぱんと張った瑞々しい頬を見た。
「はなさんはそいつが好きなの?」
「いや、仕事仲間だよ」
見栄ではなくドライな声だ。
ハリハリシャクシャク、と野菜を食む音が聴こえる。この店は特製ドレッシングも美味しい。
「お待ちい」
赤花火の目の前にグラスが置かれる。
「ありがと」
赤い唇の端が釣り上がる。
仕事仲間と男女の関係。
剣護にはジャングルのそのまた奥のように未知の世界だ。踏み入ったら罠が満載の秘跡が待ち構えている気がする。
公と私の微妙なあわいに揺らめく情。
(伊達さんちってアダルト…)
兵庫たちの恋愛事情が自分の耳に入らないだけかもしれないが。
レバーの最後の一切れをごくりと嚥下させる。




