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僕のなまえ

僕のなまえ


 高校から帰宅した一芯は雨蛙のように鮮やかな緑色の大きなじょうろを持って、珍しく庭の草木に水遣りをしていた。ラフな青と黒のチェックのロングシャツを羽織り、グレーがかった白いスラックスのポケットに左手を入れている。このじょうろも両親が仕入れて来たイギリス産で、シャープなデザインが一芯も気に入っている。金色の紋章のような飾りがついているのがいかにもそれらしい。薫子も気に入っていることは、ホースを使わずにわざわざこのじょうろで一手間かけて水遣りしているところから窺える。

 オリーブの葉の裏の銀白色を見ていた時、さや、と庭に滑り込んだ影があった。

 一芯は水遣りの手を止めじょうろを草の上に降ろす。

「何かあった?プーさん。お前、この庭とイメージがダブるよ」

「ご冗談を。黄熊(きくま)とお呼びください、殿」

「何で。流行りの呼び方でいーじゃん」

「名付けは僕が先ですし僕は蜂蜜好きでもありません。赤いシャツも着ません」

 苦り切った顔で生真面目に主張する小学生の顔を、一芯は笑いながら見た。

 からかうと楽しい。

 最初に言った台詞は嘘ではなく、童話に出て来そうな面立ち、雰囲気の少年は西洋風の瀟洒な庭が合う。そのまま立たせて人形のように鑑賞出来そうだ。黄熊にセーラーカラーの白いシャツや紺色のズボンを着せたがる、彼の母親の気持ちが一芯にはよく理解出来た。

「青鬼灯から連絡がありました」

「うん」

「雪の御方の友人、三原市枝、どうやら小谷の方らしき由」

「―――――…」

 一芯は再びオリーブの銀白色に目を遣る。葉の表の色より裏の色が綺麗で好きだ。

「神器の所有を御自ら明かされたそうでございます」

「そうか。美しき神器であろう」

 乱世に名高かった佳人の振るう得物だ。

「見てみたい、などとゆめ思われませぬよう」

 苦言を呈した黄熊に、一芯はぺロ、と舌を出してバレた?と言った。



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