華笑み
華笑み
「真白に近付く男はチェックすることにしてるの」
「君、レズ?」
「いいえ。でも真白は別格」
「別格…」
アップテンポで始まった市枝たちの遣り取りに、男どもは呆気に取られていた。
「ごめんなさい、あなたたちは遠慮してくれる?私、おいたをした子をお仕置きしなきゃならないかもしれないから」
市枝が茶目っ気あるウィンクをすると、取り巻き連中はそれで納得し、解散して行った。その中の一人は青鬼灯とすれ違う時、「女王にお仕置きとか羨ましいぞお前」と耳打ちした。
貫くような眼光が主君である一芯にも似ていると青鬼灯は市枝の前の椅子に腰掛けて思った。頂を知る者特有の、冷徹にも近い眼差し。頂に立てばとても温もりある目などしていられないのだ。過酷を知り抜きながら人に与えるというノルマを達成する為には。
「いずれ名の知られたお方とお見受けする」
厳かに古めかしい語調で問い質した青鬼灯に、市枝はあっさり頷いた。
「そうね、知られてるわよ」
「織田家縁であられたか」
「自分で調べなさいな」
冷たく突き放す。
冷たい声は続いた。
「独眼竜の子供じみた退屈しのぎなどいかようにもあしらわれようがな、乱破よ。よう聴け。妾もまた、そなたの主同様に神器を備えておる」
これは青鬼灯には耳寄りな情報だった。主君への侮辱はひとまず聞き流しておく。
神器を持つ者には戦死、非業の死を遂げた者が多い。
高慢で非業の死を遂げた戦国の美姫。
織田家に縁―――――――――。
「解るか?殺傷するも容易いと言うておるのよ、伊達の。真白に手を出そうものならな」
青鬼灯は市枝の前生を推し量った。
有名と言えばこれほど有名な戦国期の女性もいないだろう。
「あなた様に殺されるならば本望という男は多うござりましょうな。執着されるは雪の御方のみか。新庄竜軌や成瀬荒太は」
「知らぬ。己で身を守れば良い。男とは左様なもの」
素っ気無くも明快だった。
「幸せでおられるか」
「何ゆえに」
「悲しき華とも見えましたゆえ」
大輪が咲き匂った。
「さてもそなた、詩人じゃな」




