女王の脚
女王の脚
大学会館のロビーに市枝は君臨していた。
薄暗い電気の下、金茶色の長い髪をこれ見よがしに掻き遣り、金色のチュールを被せた金色の短いスカートから現れ、組まれた美脚は黒いエナメルパンプスの艶とマッチして神々しいほどであり、君臨するという表現こそが相応しかった。赤紫のニットが挑発的だ。
「青山ってどんな奴?」
取り巻きの男の一人に尋ねる。市枝の脚に見入っていた男はだらしなく緩んでいた口元を引き締め、本人はこれが格好良いと信じる表情を作って答えた。
「青山?青のこと?どんなって、何てことない男だよ。背だけが無闇に高い」
その無闇な高身長を羨んでいると口には出さないが、男の目には如実に表れていた。
くだらない、と市枝は蔑む。
「講義さぼってばっかだしね」
別の男が口を出す。
「三原さんが気に懸けるような男じゃ、ないな」
また別の、ムースで髪を撫でつけたようなインテリ風の男が勿体ぶった口調で意見する。
自分の価値観こそが唯一無二と信じて疑わないタイプ、と市枝は内心で分析する。自分を人間社会におけるピラミッドの頂点に位置すると自負し、市枝のこともまたそうだと「認めて」、同類として「尊重」するから相手をしているのだよと、恩着せがましい態度が見え見えだ。
「私がどんな男を気に懸けようが、あなたの知ったことではないわ」
艶然と笑ってやると彼は見惚れ、鼻白んだ。そうだね、そうかもしれないな、などと口の中でごにょごにょ言い、物分りの良い男を演じようと足掻いている。滑稽だった。
何てことない男だよと最初に評した男が、市枝の座る後ろを見て、目を大きくする。
「俺が気になるの、三原さん」
市枝は黙って塗り壁のような青鬼灯を振り返った。男の陰に入ったことは市枝の癇に障った。




