白く光って堕ちる時
白く光って堕ちる時
サネアツの呼び出しに青鬼灯が応じたのは昨日のことだった。
君は教育学概論を莫迦にしているのか、それとも僕を莫迦にしているのか、と青鬼灯とは異なり横にサイズのある巨漢にこってり絞られた。素直に答えるならその両方だ、と青鬼灯は胸の内でだけ明言しておいた。説教の間中、ちらちらと背の低いサネアツは青鬼灯の頭頂を山を睨むように見ていた。心証を害したものは素行不良だけではなかったらしい。サネアツがサネアツと呼ばれる理由は偏に風貌が白樺派の代表的作家と似通っているからであり、才能や人格とは無関係だった。
花を愛でようとしたら鷹に突っつかれた。
今の青鬼灯はそんな気分だった。
(あれが成瀬荒太。嵐下七忍の長か)
人当たりの良さそうな優男に見えた。
柔和な笑顔に光る刃が見え隠れしていたのは、わざとだろう。
花に群れる虫への威嚇。
愛妻があれでは、始終、バリケードを築かねばならず気が休まるまい。しかし持てる者の悩みに同情してやる謂れはなかった。
持てる者であり、あのルックスではモテもするだろう。自分と違って。
同じ忍びなのにと僻んでしまう。現時点で勝っているのは身長くらいなものだ。
真白を前にして、つい本気で口説きかけたのは不覚だった。赤花火とは正反対の気性と思える透き通るような白肌の、指通りの良さそうな長い髪の真白は、ベッドシーツの上ではどのような表情をするのだろう。聖女のような面差しがあられもなく快楽に崩れる時はあるのだろうか。どんな声を上げるのだろう。そう思うと欲しくなった。一度きりで良い。
花を無残に散らすように無茶苦茶にしたら。
そんな凶暴な衝動をも喚起させる清廉な白さだった。
きっとあの花の散らす涙は、花びらと見紛うくらいに美しいのだ。




