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感じ悪い

感じ悪い


「ごめん血迷った。綺麗だから」

 青鬼灯が頭を掻いた。

「気持ちは解る。でもこの人、俺の真白さんだから」

 荒太が白い歯を見せる。

「…羨ましいよ」

「男はみんな、そう言う。当然だけどね」

 青鬼灯も笑って、あ、という顔をした。

「やべ、サネアツに呼び出し受けてるんだった」

 学生たちには共通認識である文豪から採られた教授のあだ名を出す。

「なら早く行かなきゃ、あいつ活火山並みだから」

「言えてる。それじゃあ、」

 青鬼灯も荒太も右手を挙げ、真白はフードを目深に被ったまま会釈した。失礼かもと思ったが、荒太の意思を尊重した。

 表面上はさりげない、何気ない遣り取りだった。

 だが波打たない水面の下での攻防のようなものが確かにあったと真白は感じた。

 青鬼灯のスタジアムジャンパーを見る荒太の目は乾いて、猛禽類みたいだった。

 鋭い鉤爪でジャンパーを引っ掛けそうだ。

「荒太君?」

 フードの下から呼んだ。

 長身がかすむくらいになってから荒太は、ぜは―――――、と息を吐き出した。

 右手をテーブルに突き、地面を向いてミリタリージャケットの肩を上下させている。真白はその肩に手を置いた。

「まだおうちで療養してなくちゃいけないのに、」

「…………真白さんが、俺の愛情弁当、忘れて行ったから…。不甲斐無くも、おかず二品だけど………………」

 息を整えようと努めながら荒太が答え、インディゴブルーのバックパックを背から降ろし、小倉織の弁当袋を取り出した。真白が口元に手を当てる。

「ごめんなさ―――――」

「何、今の虫?」

 謝罪を遮って荒太が不快そうに言った。

「青山草吉さん。伊達の」

「ああはいはい、無味無臭。道理でね…暖簾に腕押しな手応え」

 感じ悪かった、と荒太は眉を寄せる。

 相手に不快を感じさせない周到さ。周到とも察知させない芝居上手。

 自分に似ていて感じ悪い。

「真白さん、このあとは?」

「次の講義が始まるまで図書館に行こうと思ってたけど、でも帰る。荒太君と一緒に」

「ついでだから付き合うよ」

「でも体調が」

「またさぼらせるのも気が引けるし、また虫が寄るのも嫌だし」

「でも」

「大人しくしてるよ。行こう」

 荒太が立ち上がったので真白もベンチから立ち上がった。

 図書館の入口に視線を遣ると司書の女性と目が合い、あちらがパッと他所を向いた。

 猫から男女関係のドラマに興味が移っていたらしい。

 いつになったらフードを外しても良いだろうか。



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