表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
458/663

表情筋

表情筋


 西洋史の講義を受けたあと、真白は空き時間を大学図書館で過ごそうとキャンパス内を歩いていた。めぼしい本がなければ五行歌の創作に励むつもりだ。

 行き交う学生たちにはパーカーや軽そうなジャケットの姿が見受けられ、ダッフルコートは大仰だったかと考える。荒太が見立ててくれた、上品なキャメル色のコートに早く袖を通したかったという思いもあった。コートについた留め具のトグルは水牛の角製で茶とグレーと白が混じり合ったような色柄をしており、触ると指につるつるする。

 荒太が戯れに噛んだ時はカチ、と微細に鳴った。

 昨晩から喉に違和感がある。

 馴染んだ病の兆候だが、今は寝込む訳にいかない。荒太の世話が出来なくなる。健康優良児の代名詞のような彼は真白に甲斐甲斐しく気遣われることに味を占めて、だいぶ甘えん坊になっている。にこにこしながら、あーんと口を開けて待つ夫に、真白は燕の雛を連想しつつスプーンを運ぶ。夫の可愛い一面だと思う。

 図書館入口横の植込みにしゃがみ込んで猫に餌を与える司書の姿が目に入る。真白のような図書館常連者以外には無愛想な彼女だが、猫は好きらしい。こけた感のある細い面立ちに笑みを浮かべている。真白は山尾を思い出した。金色の目を光らせて抱っこを狙いそうだ。


 背後に、覚えのある気配を感じて真白は振り向いた。


 声をかけようとしたところだったらしい相手は、行き場を失くした言葉を呑み込んで唇を引き締めた様子だ。

 驚いた瞳孔が大きくなっている。

「青山さん。昨日は、ありがとうございました」

 真白の礼に、青鬼灯は気を取り直して表情筋を動かし笑顔を作り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ