大型犬
大型犬
怜が店を出ると、襟に狼の毛皮のようなフェイクファーのついたダウンジャケットを着込んだ剣護が待っていた。
エメラルドグリーンのジャケットは色鮮やかに活力が発散されるようで兄には合うと怜は思う。太陽のような剣護は実は寒さが苦手で、今も両手をポケットに突っ込んで肩を竦めていた。
「どうだった?どうだった?田村御前!」
「うん。可愛かったね」
興味津々に尋ねて来る兄が人懐こいエメラルドグリーンの大型犬に見えなくもない。
よしよし、と頭を撫でてやるように怜は頷きつつ答えた。
二人揃って横断歩道に向かい、歩き出しながら言葉を交わす。
「お姫って感じしたか?」
「どうかな…。市枝さんに通じるものはあったかもしれない」
光瀬薫子は怜の目には普通の少女と映った。勝ち気そうではあるが、他に際立ったオーラは感じられなかった。可愛いお転婆娘といったところだろうか。
歴史に名を残した人物との前情報を携えて本人に逢うと、拍子抜けすることは多い。
佐原一芯然り。
イメージと何てたがわないのだろうと寧ろ驚いたのが竜軌と市枝ら兄妹だった。
生まれ変わりも一様ではない。人生が一様でないように。
「お姫同士な」
「うん」
信号が青になるのを待つ。
「高校のころの真白を思い出した」
「え、そういうタイプなのか」
「いや、若いなあと思って」
「お前…。二十一の身空でJKを見た感想がそれってどうなの。枯れてない?」
「老成のほうが語感が良いな…」
怜が綺麗な形の眉をおどけるように寄せた。
「ロウセイシテいる」
「はいありがとう」
パ、と青が光り二人は他の通行人と仲良く踏み出した。




